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整骨院や鍼灸院で働くための基礎知識|柔道整復術と鍼灸の腰痛治療の違いとは?

柔道整復師・鍼灸師として働くうえで、知っておきたい腰痛に関する知識を紹介します。腰痛と言っても、その原因や症状の程度はさまざま。患者に合わせて的確な判断・適切な処置を行うために、柔道整復術・鍼灸による主な施術方法を押さえておきましょう。

整骨院・鍼灸院で働くなら知っておきたい腰痛の基礎

まずは、腰痛についての知識を深めましょう。日本で腰痛に悩んでいる人の割合や腰痛を発症したとき、どこで治療を受けているのかをご紹介。続いて、特異的腰痛と非特異的腰痛の違いや、それぞれの症状の要因について学んでいきましょう。

男女ともに半数以上が治療を必要とするほどの腰痛を経験

日本整形外科学会プロジェクト委員会からの依頼によって2003年に実施された「腰痛に関する全国調査」によると、治療を必要とするほどの腰痛を経験したことがある人の割合は、男性57.1%・女性51.1%という結果が得られています。

データを年齢別にみると、40歳代~70歳代の男性の60%以上、40歳代~70歳代の女性の50%以上もの人が治療を必要とするほどの腰痛を経験したことがあると答えたそうです。つまり、性別を問わず40歳を超えたあたりから幅広い年代で腰痛に悩む人が一定数いるということがわかります。


    行った   行かない
大学病院 51    4.0% 1231  96.0%
総合病院 234  18.3% 1048  81.7%
地域の整形外科医院 602  47.0% 680   53.0%
かかりつけ医 125   9.8% 1157  90.2%
整体・整骨・接骨 612  47.7% 670   52.3%
マッサージ 288  22.5% 994   77.5%
指圧 138  10.8% 1144  89.2%
鍼灸 248  19.3% 1034  80.7%
その他 21   1.6% 1261  98.4%


出典:腰痛に関する全国調査

また注目すべきは、腰痛治療に行った施設についてです。上記の表は、同調査によって治療に行った施設ごとの割合をまとめたものです(※複数回答あり)。表を見てみると、腰痛治療で整体・整骨・接骨に行った人の割合は47.7%。全体の約半数が腰痛治療のために、接骨院や整骨院を訪れていることがわかります。

また鍼灸へ治療に行った割合は19.3%。腰痛に悩んでいる人全体の1/5の人が鍼灸を訪れるということ。つまり、整骨院や鍼灸院などは、腰痛治療の目的で訪れる人が多いことがわかるでしょう。

特異的腰痛の概要|原因を特定できる腰痛

ここまで腰痛をひとくくりに解説してきましたが、実は腰痛は特異的腰痛非特異的腰痛の2種類に大きく分類されます。ではまず、特異的腰痛の概要から紹介してきましょう。

特異的腰痛は、診察や画像診断で原因が特定できる腰痛のこと。特異的腰痛の原因となる代表的な病気には以下のようなものがあります。

  • 腰椎椎間板ヘルニア…読みは、ようついついかんばんヘルニア。背骨と背骨の間にある椎間板がつぶれ、内部にある髄核(ずいかく)が背中側へ押し出され、神経を圧迫することで痛みが起こる病気。

  • 腰部脊柱管狭窄症…読みは、ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう。加齢などにより、椎骨にある脊柱管と呼ばれる神経が通っている管が狭くなることで神経を圧迫し、腰痛や足・お尻のしびれなどを引き起こす病気。

  • 骨粗鬆症…読みは、こつそしょうしょう。加齢により骨密度が下がり、骨折しやすくなる病気。腰椎の圧迫骨折などが腰痛の原因になります。

これらの病気は、医師の診察およびX 線検査・MRI検査などの画像検査によって診断されます。つまり、柔道整復師や鍼灸師には診断することができません。診断書を作成できるのも医師のみです。

非特異的腰痛の概要|痛みの原因が見つからない腰痛

原因が特定できる特異的腰痛に対して、痛みの原因がよくわからない腰痛を非特異的腰痛といいます。ぎっくり腰やや変形性腰椎症なども画像検査で原因を特定することが難しく、非特的腰痛に分類されます。また特異的腰痛は全体の約15%ほど、残りの約85%が非特異的腰痛です。

非特異的腰痛は、姿勢や動作に関する脊椎の不具合によって起こるのが一般的ですが、心理的ストレスが合わさって症状が悪化することもあるのが特徴です。では、姿勢や動作に関する不具合と心理的ストレスがどのようなものなのか具体的にみていきましょう。

姿勢や動作に関する脊椎の不具合とは、前かがみの姿勢・座った状態での猫背の姿勢・腰を反らした状態・重たいものを持ち上げる動作など、腰への負担が引き金となって生じます。明らかな異常や病気は認められず危険な状態ではありませんが、脳機能の不具合が影響して腰痛を悪化させることがあります。

心理的ストレスによる脳機能の不具合…人間関係・仕事・学業などに関するストレスのほか、「腰痛がひどくなったらどうしよう」「腰痛がクセになるのが怖い」などの心理的ストレス。

心理的ストレスは、自律神経のバランスを崩したり、痛みを抑える脳内物質の分泌を抑えてしまったりと、さまざまな脳機能の不具合を引き起こしかねません。この脳機能の不具合によって、腰痛の慢性化や再発などの悪循環に陥ってしまうことがあります。

柔道整復師・鍼灸師ともに、対象となるのは非特異的腰痛。そのため非特異的腰痛が起こる要因や腰痛が慢性化してしまう理由はしっかりと押さえておきましょう。

非特異的腰痛が悪化する人の特徴

非特異的腰痛が悪化したり、慢性化したりする人には、腰痛に対する考え方や行動に特徴があるようです。腰痛が悪化するパターンを、順を追って解説するので一例として知っておきましょう。

「また腰痛が起こりそうで怖い…」という恐怖や不安から、腰を必要以上にかばってしまう

体を動かすことに恐怖を感じ、運動しない

脊椎や背筋まわりの筋肉の血流が滞り、柔軟性が損なわれる

腰痛がひどくなる・腰痛が治りにくくなる

恐怖や不安などの心理的ストレスによって、考え方や行動に悪循環が起こり、腰痛をさらに悪化させたり、慢性化させたりしてしまうのです。

 

柔道整復師の腰痛へのアプローチ

前述のとおり、腰痛を発症している人の半数近くが整体院や整骨院、接骨院に行っています。つまり、整骨院や接骨院で仕事をする柔道整復師が腰痛施術を行う機会も多いということ。柔道整復術による腰痛アプローチをまとめました。

柔道整復師の施術対象となる腰痛とは?

柔道整復師の施術対象となる腰痛は、原因がはっきりとしない非特異的腰痛。具体的には、以下のような腰痛です。

  • 日常生活から来る腰痛
  • 加齢による腰痛
  • 過去の交通事故などによる腰痛 など

ちなみに、整骨院・接骨院で保険適用となるのは急性・外傷性のケガのみ。以下、5つのパターンに限ります。

  • 骨折(不全骨折を含む)
  • 脱臼
  • 打撲
  • 捻挫
  • 挫傷(肉ばなれなど)

そのため整骨院・接骨院などでの腰痛治療は、保険の対象にはなりません。

柔道整復師の腰痛へのアプローチ方法

柔道整復術では、主に手技療法にてアプローチします。手技療法の基本は、自然治癒力を高めること。そのため、症状が出ている腰だけを行うのではなく、体全体の状態を診て全体にアプローチします。以下に、手技療法が与える主な効果や作用をパーツ別にまとめました。

  • 皮ふ…皮ふ近くにある神経を刺激し、血流を促進させ、新陳代謝を高める
  • 筋肉…筋肉内の血流量が増えるようにはたらきかけ、筋収縮力を回復させる
  • 循環器…軽擦法(けいさつほう)や揉捏法(じゅうねつほう)などによって血液やリンパ液の流れを促し、老廃物を流して回復を早める
  • 血液やリンパ…血流量の向上。リンパ液の流れもよくなる

さまざまな効果や作用が期待できる手技療法に加え、施術をサポートするための機器を使用する場合もあります。代表的な治療機器とその効果は以下のとおり。

  • 低周波および高周波治療器…電気の波動や振動によって筋肉を伸縮させ血液を送り出し、血行を促進する。周波数が1~1,000ヘルツのものが「低周波治療器」、1万ヘルツ以上のものが「高周波治療器」。

  • 干渉波治療器…周波数の異なる電流を流すことで、体の奥の痛みをやわらげたり、筋肉を収縮させて静脈血を心臓に押し返すポンプ作用を活発にしたりすることで血行を促進する。

  • 光線治療器…太陽光に含まれる赤外線・遠赤外線・紫外線・可視光線などを照射して治療する機器。光線によって体の新陳代謝を活発にし、血液やリンパの流れを促進させ、自然治癒力を高める。

鍼灸師の腰痛へのアプローチ

前述の調査によると、腰痛を患う人の1/5が鍼灸行ったという結果でした。鍼灸院も、腰痛に悩む人にとって欠かせない存在です。では、鍼灸師はどのように腰痛を治療するのでしょうか?ちなみに鍼灸師は主に鍼灸院で仕事をしますが、中には治療の幅を広げる目的で整骨院などで働く鍼灸師もいます。

鍼灸師の施術対象となる腰痛は?

非特異性腰痛はもちろん、骨折・打撲・むちうち・捻挫による腰痛の後遺症なども鍼灸の適応症に指定されています。また、柔道整復師は腰痛の保険治療はできませんが、鍼灸の場合は腰痛症(慢性の腰痛)の保険治療が可能であることも特徴です。

鍼灸師の腰痛へのアプローチ方法

鍼灸は体全体を診る医学療法です。鍼や灸などの刺激が自律神経系や内分泌系、免疫系などに作用して、筋緊張の緩和や血液・リンパ液の流れなどを改善する作用があります。ただし、腰痛治療にもいろいろな流儀があり、各鍼灸師の自信のある方法で行われています。

また鍼灸院によっては、補助療法として遠赤外線照射や低周波治療器・吸い玉(カッピング療法)・てい鍼・温灸器などを用いることもあります。光線治療器・低周波治療器については柔道整復師の項で紹介したので、それ以外の補助療法について解説します。

  • 吸い玉…ガラスやプラスチックのカップを患部に吸着させて、於血(おけつ)と呼ばれる血液の流れの滞りを改善するための療法。カッピング療法とも呼ばれる。皮ふや筋肉を吸着するため、施術後に赤や紫の痕が残るのが特徴。吸い玉の吸引によって血流が促進され、筋肉の柔軟性を高め、緊張をほぐすことより腰痛の緩和が期待できる。

  • てい鍼…体に刺さない先が丸くなった鍼のこと。高齢者など鍼を刺すことに抵抗がある人に使用する。てい鍼でツボや体への刺激を慣らし、徐々に通常の鍼治療に移行するのが一般的。

  • 温灸器…読みは、おんきゅうき。火を使わず、もぐさを電気で温める機器。押し当てる強さによって温度調整を行う

整骨院・鍼灸院は腰痛で悩む人の救世主

柔道整復師・鍼灸師、それぞれの腰痛に対するアプローチを理解できたでしょうか。慢性腰痛やぎっくり腰などの非特異的腰痛に悩む人にとって、整骨院や鍼灸院は頼れる存在に違いありません。整骨院や鍼灸院などで、柔道整復師や鍼灸師の資格を活かせるはたらき方を考えてみましょう。

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