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【後編】教員向け鍼灸あま師国家試験対策(第32回に向けて)

記事を書いた人

舘野 立人 先生

SENSEI CAFEパートナー
東洋鍼灸専門学校(3年学年主任)
指導経験 12年


  • 株式会社ひりゅう 代表取締役
  • 池袋ひりゅう鍼灸院、大塚ひりゅう鍼灸院 院長
  • 国試黒本編集員

★こちらの記事は前編があります

1.国家試験に向けたオリジナル問題作成について

(1)難易度についての考え方

定期試験や模擬試験、そして国家試験など、問題には「難易度」というものが存在しますよね。
学生からも、次のテストの難易度はどれくらいですか?という質問をよくされます。

この「難易度」、人によって感じ方はかなり変わりますよね。教員からしてみれば、これは簡単だろうと思って出した問題が、思いのほか難しいと感じる学生が多かったり、国家試験にしても、合格率からある程度比べることはできますが、絶対的な数値化はできないのではないでしょうか。

そのため、各学校さんによってもそうですし、教員一人一人でも定期試験や模擬試験、卒業試験などの難易度の設定の仕方はかなり異なるのではないかと思います。
ただ、おそらく共通している考え方の1つは、国家試験の難易度よりも難しい問題を校内の模擬試験や卒業試験で出題することだと思います。

私は難易度について学生に聞かれた場合、10段階で表したりしていました。普段の練習問題が4で、定期試験は8といった感じです。模擬試験の作成を先生方に依頼する場合には、国家試験の合格率から難易度を想定し、第26回(柔整では第31回)が現在のところもっとも難しいと考え、難しい模擬試験にしたい場合には、第26回国家試験を参考にお願いしますと依頼します。

最近の私の難易度の考え方として、毎回の模擬試験の成績の下位層に向けて作成したのは難易度低、中間層に向けて作成したのは難易度中、上位トップ3でもしっかり考えないと解けない問題は難易度高と説明するようにしています。また、問題にも以下のような種類があると思います。

①重箱の隅をつつくような細かいところを聞く
②教科書に載っていない単語や名称を入れる
③タクソノミーを複雑化する

この中で私が使用するのは②もしくは③です。
特に③のタクソノミーは、従来のⅢ型にとらわれず、パズルを解くような感覚でやってもらえるような遠まわしに問う問題を作る時に複雑化します。

②を使う場合、問題文に入れて惑わせるか、答えとして選択肢に入れ、他の3つが確実に違うことが分かっているかを聞きたい場合に使います。
①は教科書の中から太字になっていない場所を問題にするのが一番簡単かと思います。

②と③は文章だけではイメージが湧きづらいので、例題を元に説明します。まずは②を使った問題です。

 

(a)黄疸が出て、間接ビリルビンが高値を示している疾患として考えられるのはどれか。

1.ジルベール症候群

2.ウィルス性肝炎

3.胆道がん

4.胆石症

答えは1です。ジルベール症候群という疾患をご存知の方がこれを読んでいる先生方の中にどれくらいいらっしゃるでしょうか?もちろん教科書に記載はありません。そして教員だからこの疾患を知らなければならないなんてこともありません。こんなマニアックな疾患知らなくて当然です。

この問題のキーワードは「間接ビリルビン高値」です。選択肢2、3、4はどれも教科書に記載されている疾患ですね。そしてこの3つの疾患に共通するのは直接ビリルビンが高くなることです。「1なんか知らなくて当然だけど他の3つの疾患では直接ビリルビンが高くなることは知ってますよね?ということは1を選ぶこともできますよね?」という問題です。

近年の国家試験の難易度が上がっている原因の1つはこのような問題が増えたことにあると考えています。今までは4つの選択肢の中で1つがしっかりわかっていれば、つまり選択肢のうち25%がわかるだけで正解できる問題が結構あったのですが、近年は選択肢の75%がわからないと正解に辿り着けない問題が増えている印象です。

ですので、この問題の難易度を下げるとするならば

 

(b)直接ビリルビンが高値を示す疾患はどれか。

1.胆石症

2.腎不全

3.大腸がん

4.肺がん

このような感じです。この中に先ほどのジルベール症候群を入れると少し難易度は上がります。

 

(c)直接ビリルビンが高値を示す疾患はどれか。

1.胆石症

2.腎不全

3.大腸がん

4.ジルベール症候群

この見たこともない単語が入るだけで惑わされる学生は増えます。絶対1だと思うけれどこの4の疾患はなんだ!?と。おそらく正答率は、(a)の問題は10~20%、(b)の問題は90%以上、(c)の問題は60~80%くらいになるのではないでしょうか。

このように、見たことのない単語や用語のことを私は「知らないおじさん」と表現して話しています。
10年ほど前であれば、知らないおじさんに付いていったらダメだよ!とよく(c)のような問題を作って伝えていましたが、近年は知らないおじさんに付いていかないとダメな問題が増えてきたため、(a)のような問題を作って、知らないおじさんに付いていく勇気も必要だよ!と伝えています。

次に③についてです。タクソノミーについては皆さんご存知かと思います。(下図)

例題を使ってご説明します。

 

大腿動脈拍動部に取る経穴はどれか。

1.箕門

2.急脈

3.陰包

4.髀関

このような問題はあん摩の試験ではよく見かけます。この問題のタクソノミーの型を上げる=難易度を上げるとするといろいろ考えられます。

ア)大腿動脈を「血管裂孔を通過する動脈」に変える。
イ)経穴を取穴部位に変える。
ウ)経穴ではなくその経穴が所属する経脈で聞く。

といった具合です。

ア)は最近私が多用する手口で、筋肉や神経、血管と経穴の組合せ問題でついでに解剖学の知識も聞いてしまおうという問題の作り方です。筋肉であれば筋肉名を起始や停止、作用に変えたり、神経であればその神経が麻痺した場合に起こる症状や通過部位などに変換します。
こうすることで、例えば「棘上筋に入る経穴は巨骨、秉風、曲垣の3つ」とだけ覚えている学生に対して、棘上筋は肩関節を外転する、肩甲上神経支配、大結節に停止という解剖学の知識も追加させることができます。

イ)は近年の国家試験でよく見られるようになった出題傾向ですね。経穴や東洋医学臨床論では経穴名ではなく、選択肢に取穴部位を並べることによって格段に面倒な問題に変わることがよくわかりました。特に足先の要穴を取穴部位にするとかなり厄介ですね。

ウ)についてですが、経穴をその所属経脈名に聞き方を変えたところで難易度が上がるとは思えない方もいらっしゃると思います。
私もそう思っていました。ですがそんなことはないのです!特に三焦経と胆経はうろ覚えの学生が多いため急に正解率が下がります。これは今年実際に私が試験で使って判明しました。顔面神経麻痺に翳風はお馴染みの組合せですね。これを顔面神経麻痺の症状を並べて、「この患者の罹患神経を狙える経穴が所属する経脈はどれか。」と出題し、選択肢に足の少陽経と手の少陽経を並べてみたのです。結果は正答率が20%程度でした・・・これにはさすがに激怒しました(笑)

近年の、特にはりきゅうの国家試験の問題はタクソノミーが複雑化している傾向にあります。そのため、各学校さんで行う定期試験や模擬試験を作成する際には、単純なⅠ型ばかり並べるのではなく、タクソノミーのⅡ型、Ⅲ型、またはそれ以上を意識して問題を作成することが、これからの教員には必要なスキルになっていると思います。

難易度の高い問題を作る=学生の国家試験合格率を上げるためと考えて、質が良く、そして難易度の高い問題を作っていただければと思います。国家試験が終わった後に、「先生の問題の方が何倍も難しかった」と言われるようになると最高です。

(2)国家試験を分析する

皆さんは毎年国家試験問題を最初から最後まで通して解いていますか?教員になった以上、国家試験とはずっと向き合っていかなければならないので、ご自分の担当科目以外もしっかり目を通すと良いでしょう。毎年すべての問題に目を通すと、何となく国家試験の傾向が見えてきます。以下は私が近年の国家試験(あん摩、はりきゅう共通)の傾向として思っていることです。

①難易度は午前<午後
②午前は特に生理学と臨床医学各論が簡単=タクソノミーⅠ型が多め
③症例問題の増加
④筋肉、神経、検査法と経穴の組合せ問題の増加

これらを元に国家試験対策を行うとすると、

  • 午前の西洋系科目でしっかり点数を取れるようにする。
    目標点数は8割!特に臨床医学各論は午後の東洋医学臨床論にも多数出題されるため、得意科目にしてもらう。
  • 経穴が苦手な学生には筋肉や神経とセットで覚えてもらう。
  • 症例問題に慣れてもらうためにタクソノミーの複雑な問題をなるべく多く出題する。

以上のことを学生に理解してもらい学習に励んでもらっています。
難易度が上下しても毎年一定の合格率を保っているので間違っていないのではないでしょうか。この他にもいろいろな傾向が見えてくる先生もいらっしゃると思います。
その傾向を踏まえて効率よく国家試験対策を行っていかれるとよいと思います。

2.主な教科ごとの国家試験対策

ここでは、私が国家試験の中でも重要な科目と位置づけている6科目についてお話ししていこうと思います。

(1)臨床医学総論と各論
国家試験の中では最重要科目ではないでしょうか。
出題数だけではなく、その他の科目に関連する項最重要科目ではないでしょうか。出題数だけではなく、その他の科目に関連する項目も多いため、まずはここでしっかり点数を取れるように指導するのが合格への近道です。

総論と各論はある意味で相補関係にある科目ですので、別々に対策をやるよりは、各論をベースに総論で足りないところ(総論でしか出てこないような熱型や発疹の種類など)を補うようなやり方の方が効率がよいと思います。
また、各論は単純記憶で何とかなる章もありますが、肝胆膵疾患や神経疾患、内分泌疾患など多くの章は解剖学や生理学も合わせて復習するような対策授業ができると午前科目全体の点数アップにもつながります。
さらに、症例問題が増えているため、症状や検査所見を見て何の病気か想定できるような訓練も必要かと思います。

(2)解剖学
近年、重箱の隅をつつく系の細かい所を聞いてくることが多くなった印象です。試験対策の授業ですべてカバーすることはできないので、どうしても解剖学の点数が伸びない学生に対しては、経穴と関連する筋や神経、血管を経穴と合わせて解説する方が効率がよいですし、解剖学をやる必要性を説明するのもやりやすいのでオススメです。

(3)生理学
ずっと基礎的な問題が出題されている印象です。私の中ではもっとも点数が取りやすい科目と思っています。それでも苦手意識が強い学生に対しては、タクソノミーのⅠ型のような単純な問題を徹底的にやらせ、問題を見ただけで答えがわかるくらいにさせてもある程度本番でも点数が取れるようになると思います。

(4)リハビリ
年度によって難易度の高低が激しい印象の科目です。少なくとも臨床医学各論に出てくる脳卒中や脊髄損傷などのリハビリを中心に、各論とリハビリどちらでも点数が取れるように知識を合わせて説明するとよいと思います。

(5)東洋医学概論
少しずつ難易度が上がってきている科目だと思います。東洋医学臨床論の弁証問題のためにも、気血津液が足りなくなったり滞ったらどうなるか、また臓腑の作用が失調するとどうなるかをイメージさせて解説できるとよいでしょう。
そして基本は五行色体表です。まずはこれを覚えてもらい、覚えているだけでこれくらい問題が解けてしまうことを伝えてあげると学生もちゃんと覚えてくれると思います。

(6)経穴
なかなか記憶が定着しない学生にはステップアップ方式でやらせるのはいかがでしょうか。まずは書かせてもなんでもよいので、経穴を中府から期門までスラスラ言えるようにさせます。
次に、要穴の取穴部位を覚えてもらい、最後に解剖学的知識を加えていってもらいます。こうすることで、少なくとも選択肢に経穴名が出ても何経か、どの辺りにあるかまではわかるので、答えに辿り着く可能性が上がると思います。

(7)東洋医学臨床論
西洋系の問題は、特に整形外科疾患を絡めてくることが多いので、筋や神経、血管、検査法と経穴の関係を、過去問を例にするなどしてよいのでしっかり解説と問題練習をすることで、経穴の点数アップにもつながります。
東洋系の問題は、特に内科疾患を絡めてきても大丈夫なように各論の知識に加えて、症例問題に書かれているキーワードから中医学的な弁証が導き出せるような訓練をしていくとよいと思います。

以上、これらはあくまでも私の科目ごとの指導の仕方ですが、ここから本番までの追い込みの際に少しでも参考になれば幸いです。

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