「学校を辞めたい」と言われたときに考えてほしい3つのこと
鍼灸師
記事を書いた人
小泉 直照 先生
SENSEI CAFEパートナー
(元)東日本医療専門学校
指導経験 15年
- はり処 愈鍼(ゆしん)院長
- 東北大学大学院漢方統合医療学共同研究講座技術補佐員
- YCT主宰
不要な中退を防ぐためのコミュニケーション術
専門学校の教員として、学生が退学を考えていると知ったとき、どのように対応すればよいのでしょうか?本記事では、学生の退学を阻止するための3つの重要なポイントについてご紹介します。
(1)イントロダクション~教員になる気が無かった筆者~
皆様こんにちは。鍼灸師で鍼灸専門学校教員もしていた小泉直照と申します。
先ずは簡単に自己紹介をさせていただきます。
私は現在、宮城県仙台市で現在自分の鍼灸院で臨床と経営をしながら、東北大学病院でも鍼灸外来を担当させていただき、様々な場所で講演もさせていただいております。
自分の鍼灸院を開業する前は、鍼灸専門学校で専任教員・非常勤講師として勤務しておりました。
実は、もともと私は教員になるつもりは「全く」ありませんでした。
教員養成科に行ったのは、私が尊敬する鍼灸師の先生に、「一流の鍼灸師の条件は何ですか?」とお聞きしたところ、「臨床・教育・研究が出来る事。小泉お前は教員をやれ。」とのお言葉をいただいたので、内心「教員はやりたくないな…」と思っていましたが、とりあえず進学しました。
私が行った教員養成科は母校の教員養成科だったのですが、そのカリキュラムも当時は発展途上であり、カリキュラムは小学校教員を主に育成する教育大学の先生が担当だったので、素地のない者たちからすると、飲み込むのに非常に苦労するような内容でした。
ここまで愚痴みたいな話が続きましたが、実はここが大事なポイントになります。
私は学生時代正直、鍼灸科や教員養成科の教育に不満だらけでした。
ですから、教員になったときに、「学校を辞めたいという学生の気持ち」が痛いほどよくわかったのです。
非常に皮肉な話ではありますが、実体験があったからこそ、その後の教員生活で担任をさせていただいた中で、自分のクラスから、「一人も退学者を出さない」教員生活を送ることができたのだと思います。
(2)「学校を辞めたい」と言われたときに考えてほしい3つのこと。
ここからは、学生の不要な退学を防ぐために、実際に必要な3点についてお話いたします。
前提として「不要な退学」と書いたのは、金銭面的な問題など教員にはどうすることもできない場合もあります。
しかし、学力面や人間関係などで退学するのは、私としては「不要な退学」と捉えています。
実際に退学を防ぐために必要な具体的なポイント3点は以下になります。
①日頃からのコミュニケーション ②質問・傾聴スキル ③学生のモチベーション向上 |
①日頃からのコミュニケーション
「学力的な問題」はもちろん、「学内での人間関係」や「将来への不安」など、学生が退学を考える理由は様々です。学生の心情や悩みを理解するためには、日頃からのコミュニケーションが欠かせません。まずは学生に対して日頃から積極的に話を聞き、彼らの声に耳を傾けましょう。
まず、日頃から時間を作って、じっくりと話をすることが重要です。
学生が自分の気持ちや悩みを素直に打ち明けるためには、十分な信頼関係が必要です。そのため、休み時間や、放課後に積極的にコミュニケーションを取る時間を設け、学生が安心して話せる信頼関係を構築しましょう。
日頃からのコミュニケーションのポイントは、「学生のどんな話も遮らずにしっかりと聞く」ということです。
この日頃からのコミュニケーションが、学生の退学率を大きく減らすために必須になります。
もし、この記事をお読みの先生が、いきなり学生から「退学」の相談をされているのだとすれば、それは明らかに日頃からのコミュニケーション不足です。
是非学生との日頃からのコミュニケーションを、「教員としての必須業務」と捉え、毎日30分でも良いので時間を確保してください。
この日頃からのコミュニケーションにおいても、実際に退学の相談をされた際にも重要になる「スキル」があります。
それがポイント②質問・傾聴スキルになります。
②質問・傾聴スキル
教員として、傾聴スキルを習得することは非常に重要です。学生の心理状態や個別のニーズを的確に把握し、的確なサポートを提供するためには、適切な質問技法や傾聴のスキルが必要です。
質問技法としては、「オープンクエスチョン」を用います。
医療面接ではできていらっしゃるのに、学生との会話だと途端にこのオープンクエスチョンができなくなってしまう先生がいらっしゃいます。
オープンクエスチョンは学生からの詳細な情報や、感情を引き出しやすくし、より深い対話を促す効果があります。
以下に私が使用していたいくつかの質問例を挙げます。
(実際はもう少し話し言葉です。)
- 「退学を考えたきっかけは何ですか?具体的に教えてください。」
- 「今の勉強や、授業について、どんなことが問題だと感じていますか?」
- 「学校生活でのストレスやプレッシャーはどのようなものがありますか?」
- 「卒後について、どんな不安や疑問がありますか?」
このようなオープンクエスチョンを通じて、学生の思考や感情を引き出し、彼らが抱える具体的な問題や悩みをより深く理解しましょう。
そして質問技法以上に重要なのが、傾聴のスキルです。
学生が話す際には、注意深く耳を傾け、非言語的なサイン(身体動作など)や感情の変化にも注目しましょう。
相手の話を遮ることなく、黙って聴くことが、彼らにとっての安心感や理解への信頼を築くことに繋がります。
日頃からのコミュニケーションで、学生の個々の問題をいち早く察知し、傾聴スキルで問題を可視化し、早め早めに適切に対処していれば、退学の話をされるリスクはグッと減ります。
そして、退学の話を万が一されたときに、傾聴スキルで徹底的に悩みを深堀して聞き取り、学生の不安や不満が軽減したタイミングで、重要になるのが③学生のモチベーション向上です。
③学生のモチベーション向上
学生が退学を考える背景には、モチベーションの低下や将来への不安があることがあります。教員の役割は、単に授業をするだけではなく、「常に」学生のモチベーションを高め、キャリアに対する明確なビジョンを持たせることです。
まずは日頃から学生の目標設定や進路相談のサポートを行いましょう。
学生が自身の将来に対して具体的な目標を持つことは、学習意欲を高める上で重要です。また、キャリアに関する情報や業界の実情を共有し、学生が将来の展望について明確なイメージを持つことを支援しましょう。
私が卒業した鍼灸学校では1年生の最初の授業で、
「卒業後このクラス(60名)で、鍼灸でメシが食えるのは5人もいない」
という話をされました。
こんな話は【最悪】です。
根拠も良くわかりませんし、入学したてで将来への希望に満ち溢れている学生たちのモチベーションを低下させて、何か意味があるのでしょうか?
仮に厳しい業界ということを伝えて、奮起させる意図があったとしても、このような話し方ではマイナスしかありません。
もし、仮に上記の話をどうしても伝えたいのであれば、
「世間では、卒業後鍼灸でメシが食えるのは少ないと言われているけど、この学校でしっかり勉強をして、必ずこのクラス全員が、卒業後に鍼灸師として充実感を持って生活できるように全力でサポートします!!!」
ぐらいのことを教員として伝えるべきです。
学生は教員の言葉に教員が思っている「100倍」敏感だと思うぐらいでちょうど良いと思います。
常にモチベーションが向上するような話を心がけましょう。
さらに、学生の学習意欲を高めるために、先生方の実際の臨床での経験や、実技実習での刺鍼や施灸による変化の認識を促すことも重要です。授業や実習の中で学生が自身の成長を実感できるようなフィードバックや評価を提供しましょう。
定期的な個別面談や進捗報告の機会を設け、学生との対話を通じて彼らの成長や進歩を共有しましょう。
私は、学生のほとんどは自身の成長を正しく認識できないと感じています。
過度に成長していると感じている方や、十分な成長をしているにもかかわらず自信が持てない方など、様々な学生がいるので、具体的なフィードバックやアドバイスを通じて、学生が自身の能力や成果を認識できるようサポートしましょう。
また、学生の個別のニーズに合わせたキャリアサポートを提供することも重要です。
就職活動や開業などに関する情報提供やアドバイス、就職対策のサポートなど、学生が将来に向けて自信を持てるようなサポートを心がけることにより、将来の展望に希望が持て、学生のモチベーションが向上します。
(3)最後に~相談される教員になりましょう~
先生方は学生が「退学したい」と話しているのを、「誰」から知りますか?
本人でしょうか?クラスメイトの学生さんでしょうか?それとも同僚の先生からでしょうか?
学生は相談相手を「選ぶ」立場にあります。
是非、「相談相手として選ばれる教員」になっていただきたく思います。
そのためにも、専門学校の教員として、学生が退学を考えた際には、「日頃からの真摯なコミュニケーション」を通じて彼らの悩みを理解し、「傾聴スキル」を活用して適切なサポートを提供しましょう。さらに、「学生のモチベーション向上」を通じて彼らの学習意欲を高め、将来に対する明確なビジョンを持たせることが重要です。
是非、信頼関係の構築と学生との継続的な対話を大切にし、不要な中退を防ぐためのコミュニケーション術を実践してください。
以上、学校を辞めたいと言われたときに考えてほしい3つのことについてのアドバイスをお伝えしました。
専門学校の教員の皆様が学生の不要な退学を阻止し、良質な鍼灸師を育成することがこの業界の発展には必要不可欠だと思います。
本稿がその一助になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。