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あん摩マッサージ指圧師は何を学ぶの?背景や勉強内容について解説

疲労困憊で明日への活力を得たい、むくみや冷えが気になる、最近動き出すと足が痛い、スポーツの前後、こんな時「マッサージを受けに行こう!」と思う方も多いことでしょう。あん摩マッサージ指圧師の出番ですね。
ここではあん摩マッサージ指圧師が「どのような目的でどんなことを学ぶのか」養成校のカリキュラムを中心に「マッサージ」についての話を加えながら解説していきます。

あん摩マッサージ指圧師とは

単に「マッサージ師」や「按摩さん」と呼ばれることが多いですが、正式な名称は「あん摩マッサージ指圧師」で、厚生労働大臣免許の国家資格です。故にただ押したり揉んだりしているわけではなく痛みの改善や機能回復などを目的とし、あん摩・マッサージ・指圧それぞれの手技やそれらの作用機序および治効の理論、解剖学などの西洋医学系の学問から東洋医学まで幅広く学びます。施術を行う上で高価な機材などは必要なく、身一つで出来るいわば医療技術職の一つです。

資格を取得するには、高校卒業後に専門学校や大学などの養成校で3年以上の教育課程を修了したのち、年1回実施される国家試験に合格する必要があります。
また実技も重要視されることから、通信制での取得は不可能です。

資格取得後は施術所の開業、医療保険適用下での訪問マッサージ、医療機関勤務や介護施設で機能訓練指導員として勤務、など働き方や就業先も様々です。
過去にはその高い専門的な知識と技術を持ち合わせるがゆえに、競走馬のケアに携わっていた方もいたとのことです。

Q.「マッサージ」は誰でも行えるのか?

A.できません。

日頃何気なく使う「マッサージ」という言葉ですが、マッサージを業とできるのは医師とあん摩マッサージ指圧師のみです。つまりマッサージを行うためには国家資格が必要です。無免許で行えば医師法やあん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(あはき法)により処罰の対象になります。(※法律に関するものは歴史的仮名遣いで記載。)

この業ですが、厚生労働省の通達の一部では業を以下のように定義しています。
“法律上業としてある行為をするという場合その業の本来の意味は、その行為を反覆継続して行うということである。 即ち、ある行為を反覆継続して行う場合には、その行為を業として行うということになる。 従つて、相手方が不特定多数であること、対価を受けること等は本来の「業」の概念上必要ではない。”

中にはお金が発生しなければならないという人がいますが、ここで規定されている業は社会通念上の業ではなく法律としての業であるため、「ある行為を反覆継続して行う場合には、その行為を業として行うということ」がポイントであり、金銭の有無などは関係ないことを認識しておく必要があります。

ちなみに医師が行う行為は医業、あん摩マッサージ指圧師が行うのは医業類似行為です。
医業は「医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為」。医療類似行為は「一定の資格を有する者が行わなければ人体に危害を及ぼすおそれのある行為」です。
医業類似行為には、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師が行う法で認められたものとカイロプラクティック、整体など法に基づかないものがあります。
身体の不調があった時、どれを選択するのかは各々自由ですが混同しないようにしましょう。

目が見えなくても出来る仕事

視覚障害者で従事している方が多いのもこの資格の特徴です。

元々、あん摩は鍼灸と共に古代中国から日本に伝来し、そこから柔道の活法やアメリカの整体術などに影響され指圧が誕生しました。マッサージはヨーロッパから伝わりました。

最初こそ視覚障害者と関係のなかったあん摩マッサージ指圧師でしたが、江戸時代に全盲の杉山和一が現在の日本でメジャーな鍼の刺入方法である「管鍼法」を考案し、後に鍼と按摩技術の習得を目的とした世界初の視覚障害者の職業教育施設とされる「杉山流鍼治導引稽古所」を開設しました。それ以降、視覚障害者の専業といわれるほど伝統的な仕事となり、多数の人がこの仕事により生計を立てています。

この場合の就労体系で障害者雇用促進法による企業の障害者雇用の義務から「ヘルスキーパー雇用」というものがあります。企業に雇用されている従業員を対象にマッサージ施術を行います。視覚障害を持っていても企業で安定した仕事ができ、企業は義務を果たすと同時に従業員の健康増進や業務の能率アップを期待できます。

無免許マッサージ店問題

近年では慰安や美容の名目で無免許のマッサージ店が横行しており、視覚障害者の職業的・経済的な自立の妨げになっています。あはき法には名称独占の規定がないこともあり、「マッサージ」とかかれた看板を見ても取り締まるのが難しかったようです。しかしながら業務としては処罰の対象となるため、無許可で行っている方がこの記事を読まれている場合は業務のあり方を再検討してくださると幸いです。

養成校での勉強内容

あん摩マッサージ指圧師になるには養成校に通う必要があることが分かりました。
西洋医学から東洋医学に実技まで…どういったことを学ぶのでしょうか?

養成校でのカリキュラムの詳細と具体的な科目について解説していきます。

カリキュラムについて

時代の流れと共により質の高いものになっています。
2016年にあん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師 学校養成施設カリキュラム等改善検討会によりカリキュラムの見直しが行われた結果、新たに職業倫理や医療保険制度について学ぶカリキュラム、施術適応か否かの判断能力や臨床能力の向上を目的としたカリキュラムなどが追加され、最低履修時間数が77単位以上から85単位以上へ引上げとなりました。
これは2018年度入学生から適用され、現在のカリキュラムにも反映されています。

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分野 教育内容 教育の目標 単位数 備考
基礎分野 科学的思考の基盤 科学的・理論的思考力を育て、人間性を磨き、自由で主体的な判断と行動を培う。生命倫理、人の尊厳を幅広く理解する。
国際化及び情報化社会に対応できる能力を養う。患者への適切な対応に必要なコミュニケーション能力を養う。
14 コミュニケーションを含む。
人間と生活
専門基礎分野 人体の構造と機能 人体の構造と機能及び心身の発達を系統立てて理解できる能力を養う。 12 運動学を含む。
疾病の成り立ち、予防及び回復の促進 健康及び疾病について、その成り立ちと予防及び回復過程に関する知識を修得し、疾病についての理解力、観察力及び判断力を養う。 12
保健医療福祉とあん摩マッサージ指圧の理念 保健医療福祉制度の中におけるあん摩マッサージ指圧師の位置付けや職業倫理について学ぶ。
人々が生涯を通じて、健康や障害の状況に応じて社会資源を活用できるように必要な知識と基礎的な能力を養う。
3 社会保障制度及び職業倫理を含む。
専門分野 基礎あん摩マッサージ指圧学 「あん摩マッサージ指圧」施術の枠組みと理論を理解し、系統的な「あん摩マッサージ指圧」施術を行うことのできる基礎的能力を養う。 7 東洋医学概論、経絡経穴を含む。
臨床あん摩マッサージ指圧学 「あん摩マッサージ指圧」施術に必要な知識と技術を修得し、問題解決能力、適・不適の判断能力を養う。 11 あん摩マッサージ指圧の適応の判断、病態生理学並びに生体観察を含む。
社会あん摩マッサージ指圧学 現代社会における現状と課題を踏まえ、あん摩マッサージ指圧師の果たすべき役割について学び、「あん摩マッサージ指圧」に関しての社会的ニーズの多様化に対応できる能力を養う。 2 施術所における臨床実習前施術実技試験等を含む。
実習 社会的ニーズの多様化に対応した観察力、分析力を養い、適切な施術ができる能力を修得する。 10
臨床実習 あん摩マッサージ指圧師としての臨床における実践的能力及び保険の仕組みに関する実践的能力を習得し、患者への適切な対応を学ぶ。また、施術者としての責任と自覚を養う。 4
総合領域 あん摩マッサージ指圧は、伝統医療として経験が重視される施術であり、あん摩マッサージ指圧学、医学及び人間教育等の学習が総合されて充実したものとなるよう総合的に理解する。
各学校がそれぞれの特色を発揮した教育を展開することによって、生涯を通じて地域や広く社会の期待に応えることができる能力を養う。
10 あん摩マッサージ指圧の歴史を含む。
合計 85単位
分野 教育内容 教育の目標 単位数 備考
基礎分野 科学的思考の基盤 科学的・理論的思考力を育て、人間性を磨き、自由で主体的な判断と行動を培う。生命倫理、人の尊厳を幅広く理解する。
国際化及び情報化社会に対応できる能力を養う。患者への適切な対応に必要なコミュニケーション能力を養う。
14 コミュニケーションを含む。
人間と生活
専門基礎分野 人体の構造と機能 人体の構造と機能及び心身の発達を系統立てて理解できる能力を養う。 12 運動学を含む。
疾病の成り立ち、予防及び回復の促進 健康及び疾病について、その成り立ちと予防及び回復過程に関する知識を修得し、疾病についての理解力、観察力及び判断力を養う。 12
保健医療福祉とあん摩マッサージ指圧の理念 保健医療福祉制度の中におけるあん摩マッサージ指圧師の位置付けや職業倫理について学ぶ。
人々が生涯を通じて、健康や障害の状況に応じて社会資源を活用できるように必要な知識と基礎的な能力を養う。
3 社会保障制度及び職業倫理を含む。
専門分野 基礎あん摩マッサージ指圧学 「あん摩マッサージ指圧」施術の枠組みと理論を理解し、系統的な「あん摩マッサージ指圧」施術を行うことのできる基礎的能力を養う。 7 東洋医学概論、経絡経穴を含む。
臨床あん摩マッサージ指圧学 「あん摩マッサージ指圧」施術に必要な知識と技術を修得し、問題解決能力、適・不適の判断能力を養う。 11 あん摩マッサージ指圧の適応の判断、病態生理学並びに生体観察を含む。
社会あん摩マッサージ指圧学 現代社会における現状と課題を踏まえ、あん摩マッサージ指圧師の果たすべき役割について学び、「あん摩マッサージ指圧」に関しての社会的ニーズの多様化に対応できる能力を養う。 2 施術所における臨床実習前施術実技試験等を含む。
実習 社会的ニーズの多様化に対応した観察力、分析力を養い、適切な施術ができる能力を修得する。 10
臨床実習 あん摩マッサージ指圧師としての臨床における実践的能力及び保険の仕組みに関する実践的能力を習得し、患者への適切な対応を学ぶ。また、施術者としての責任と自覚を養う。 4
総合領域 あん摩マッサージ指圧は、伝統医療として経験が重視される施術であり、あん摩マッサージ指圧学、医学及び人間教育等の学習が総合されて充実したものとなるよう総合的に理解する。
各学校がそれぞれの特色を発揮した教育を展開することによって、生涯を通じて地域や広く社会の期待に応えることができる能力を養う。
10 あん摩マッサージ指圧の歴史を含む。
合計 85単位

最初の方でさらっと「あはき法」という言葉が出てきて気になっている方もいると思いますが、「あん摩マッサージ指圧師」と「はり師」及び「きゅう師」は異なる資格です。試験日や問題数も異なりますが、学ぶ内容や教科書が重複しており1度にすべての資格を取得できる学校もあります。カリキュラムもベースは同じではり・きゅうの内容が追加されます。単体であん摩マッサージ指圧師を目指すの場合は上記の通り合計85単位です。あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の全てを目指す場合は、専門分野の単位数が増え合計100単位は必要になります。

科目について

カリキュラムについて色々と細かく話しましたが難しいですね。
少し噛み砕いて解説していきます。

授業科目

具体的な授業科目は、基礎分野では、心理学、栄養学、英語など。
専門基礎分野では医療概論、衛生学・公衆衛生学、関係法規、解剖学、生理学、病理学概論、臨床医学総論、臨床医学各論、リハビリテーション医学など。
専門分野ではあん摩マッサージ指圧実技、臨床実習、東洋医学概論・経絡経穴概論、あん摩マッサージ指圧理論、東洋医学臨床論などです。

座 学 ≪西洋医学系≫

解剖学・生理学
解剖学は骨格、筋、神経、内臓、内分泌、感覚器などの位置や構成組織といった人体の構造について学びます。生理学は神経の活動や内分泌(ホルモン)の作用機序のような人体の機能やメカニズムなどについて学びます。どちらも医学を学ぶ上での基礎であり、他の科目や実技にも繋がるため特に理解を深める必要があります。

学習法としては学校の授業の他にも、自分の体を動かしながら作用筋肉やその起始停止・支配神経を確認したり、脈管系では教科書の文章を読みながら絵に描いてみたり、今はYouTubeで解説しているチャンネルもあるので参考として視聴したりしながら覚えると良いでしょう。
解剖学と生理学は生きていくために必要な体の構造や仕組みやについて学べるため覚え甲斐のある楽しい教科です。文章や単語で覚えるよりもイメージと共に覚えることをオススメします。

座 学 ≪東洋医学系≫

東洋医学臨床論
国家試験において最も出題数が多い科目です。
様々な症候を西洋医学と東洋医学の両面から学びます。あん摩マッサージ指圧施術の適応・不適応を判断する力や適切な施術方法の選択が行える力がつき、年代性別・受傷機転・症状・所見などから考える力を養います。

例えば腰痛を訴える方がいらしたとしましょう。原因がガンや腫瘍、内臓の可能性もあります。狭い視野や知識でただの腰痛と決めつけ取り合えず寝かせて揉む、そうやって気づいた時には末期…。 こうなったらどうしますか?早く異変に気づいていれば違う未来があったかもしれません。

相手のためにも自分のためにも施術の適不適の判断ができることは非常に重要であり、そのためにも今まで学んできた解剖・生理・リハ・病理・臨床医学・経穴・東洋医学概論・実技など全ての知識を統合し、適切に引き出せる柔軟な頭が必要です。心して臨みましょう。

あん摩マッサージ指圧理論
あん摩・マッサージ・指圧、それぞれの歴史から施術意義、どんな生体反応が生じて作用するのかの作用機序や治効理論などについて学びます。学校では全ての教科を同時進行で学ぶため、すぐに他の教科と結びつけるのは難しいかもしれませんが、解剖学・生理学の知識が活かされる場面が多々あります。これをきちんと学ぶことでただの揉みほぐし屋さんからあん摩マッサージ指圧師への1歩を踏み出せます。
最初は全く分からないかもしれませんが、食らいつきましょう。他の教科の知識がついてくると徐々に点と点が繋がります。根気強く挑みましょう。

実 技

あん摩マッサージ指圧実技
あんま・マッサージ・指圧、それぞれの手技を体で学ぶ時間です。教員が解説しながらデモンストレーションし、クラスメートや教員に実際に行いながら技術を習得していきます。授業中は気持ちよくてついつい眠ってしまったり、体の使い方に慣れていないうちは全身筋肉痛になったりと楽しく時にやや辛くお互いの体のケアをしつつ、まずは基本手技から習得を目指します。

手技は3つとも異なりますが、共通点として「力任せではなく体の全体を使って行う」ということがあります。これがスムーズに出来るようになると自身の体への負担が減るのは勿論、より多くの方のサポートが出来るようになります。

そうなるためには日々の手技の鍛錬のみならず、解剖学などから身体の仕組みをよく理解することが必須になります。更に生理学・臨床医学・東洋医学臨床論などの理解を高めることで実際の臨床現場で手助けできることが増えます。体の使い方がスムーズになると、移乗などの介護技術の習得やスポーツ現場でフォームから痛みの原因の考察などがしやすくなります。

上達のポイントはTTPです。「T(徹底)T(的に)P(パクる)」です。教員や上手な先輩の手の角度や脚の位置、顔の向きや体の動かし方も全てマネしましょう。デモンストレーションではただ見るのではなく、ポイントを押さえることが重要です。まずは基礎。体に染み込ませましょう。

まとめ

あん摩マッサージ指圧師の背景に触れつつ勉強内容について解説していきました。いかがでしたでしょうか?
この資格は人の身体に手を当てることにより、凝り固まった筋肉を解して体の悩みを改善していきます。それと同時に相手の心にも寄り添い、不安や緊張をも解きほぐし心も健康に出来る仕事です。勉強はやればいくらでもどうにでもなります。是非チャレンジしてみてくださいね。

 
【参照URL】
公衆浴場法等の営業関係法律中の「業として」の解釈について
厚生労働省 無資格者によるあん摩マッサージ指圧業等の防止について
社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 あん摩・鍼・灸問題(あはき問題)
厚生労働省 あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師学校養成施設カリキュラム等改善検討会

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