鍼灸師は食えない!?実際の市場と可能性
業界動向・知識
鍼灸師
自分自身の仕事や職業を選ぶ上で大切なことや必要な要素は様々ありますが、給与が安定していることは重要な要素のひとつと言っても過言ではありません。
いざ鍼灸師になりたいと思いインターネットで調べると「鍼灸師 食えない」等のネガティブなワードが検索上位にあり、本当なのか気になり躊躇してしまう方は多いのではないでしょうか。
今回は、実際に鍼灸師は食えないのか、また今後の市場や可能性について様々な観点から考察していきます。
鍼灸師が食えないってホント?
鍼灸師は、医療従事職のひとつであることから給与の比較や集計となると、同じ医療業界の柔道整復師やあん摩マッサージ指圧師のほか医師や看護師などとあわせた比較や集計になりやすいです。
医師や看護師らの活躍する医療機関は比較的規模の大きい医療機関が存在している一方で、鍼灸師が活躍する現場は、個人経営の鍼灸院などが多いため小規模であることが多いです。
単純な比較となるとデータで比較すると見劣りし、また集計となると実数値よりも高い数値になってしまうということが発生します。
ここからは、実際の鍼灸師の給与平均とその他を比較してみます。
平均年収は少し低いが食えないなんてことはない
厚生労働省が2022年に行った金構造基本統賃計調査によると、鍼灸師はその他保健医療従事者となっており、柔道整復師やあん摩マッサージ指圧師などと合同で調査が行われており、上述した小規模(~99人までの事業所)において計算すると、平均年収は約418万円となっています。
一方、2018年に全日本鍼灸学会が行った鍼灸師の平均年収は324万円とされており、単純比較すると鍼灸師はその他保健医療従事者と比較して、94万円低いということになります。
また国税庁が2022年に行った民間給与実態統計調査によると、全業界の平均年収は458万円となっており、賃金構造基本統計調査の金額と比較すると40万円ほど高いということになります。
これらのことから、鍼灸師の年収は他の業界と比較するとやや低い傾向が伺えます。
給与と労働時間はセットで確認
実際に働くにあたっては給与面も大切ですが、鍼灸師を取り巻く環境も確認する必要があります。
鍼灸師は労働時間や労働環境に対してブラックな印象を持たれることもあるかもしれません。
しかし、他の医療従事者と比較すると、労働時間が長すぎるということは少ないと考えられます。
2022年度に厚生労働省から発表された労働統計要覧の産業別月間実労働時間数によると、医療福祉分野では、事業規模5人以上で130.5時間、30人以上で139.1時間となっており、鍼灸師は事業規模5人以上の労働時間に当てはまると考えられます。
規模の大きな病院で働く医師や看護師などであれば、夜間勤務があったり、時間外労働が発生しやすい状況ですが、一般的な鍼灸院で働く鍼灸師であれば労働時間は長くないと言えるでしょう。
一方、労働環境に関しては鍼灸師が働く鍼灸院などは事業形態が小規模なことが多いため福利厚生が充実していなかったり、労働規則が整っていなかったりすることがあるかもしれません。もし、自分の職場がブラックかもしれないと思った場合には、環境はその場に携わる人に大きく影響されることから、職場環境を変えてみることも大切です。
競争が激しいのはどの業界も同じ
今後の需要や将来性があるかどうかという側面も、鍼灸師が食えなくなる原因となるかもしれません。
厚生労働省の衛生行政報告令のデータでは、鍼灸師の数は年々増加しており、2010年から2020年までのわずか10年で9万人から12万人に増えています。同様に、鍼灸施術を行う施術所の数は2.1万ヵ所から3.2万ヵ所へ、約1.5倍に増えています。
鍼灸師の数や施術所が増えることで競争が激しくなることが予想されますが、少子高齢社会の日本においては鍼灸に限らずどの業界でも厳しくなることが考えられます。
鍼灸師の市場と可能性
施術所の数が増えているということは、一方では需要の高まりについて期待ができると言えます。高齢者の増加によって、健康への意識が高まり高齢者への施術機会が増えることがあるかもしれません。
スポーツや美容などに関する鍼灸施術は年齢を問わず、生活の質の向上にも働くことから今後益々注目が集まる可能性もあります。
現在は多様な働き方を追求する機会も増えましたが、独立開業権がある鍼灸師は自分次第で働き方を選べるメリットも多くあります。
鍼灸師としてのキャリアを築くためのポイント
食えない鍼灸師にならないためには、ビジョンをしっかりと定めて、日々の鍼灸の技術力向上のための勉強を怠らないことが大切です。
鍼灸師の資格取得前や、鍼灸師の養成学校で学んでいる学生の間でも、その準備を行うことは可能です。自分がどのような鍼灸師になりたいのか、どのような人を対象にして、どのような施術を行っていくのかについて、予め考えておくことは決して無駄にはなりません。
独立や開業を目指したいという学生さんや鍼灸師は多いと思いますが、その場合には鍼灸師としての実力に加えて経営についてのノウハウについても学んで知っておくと良いでしょう。
まとめ
鍼灸師が食えない!?という検索予測を見て不安になってしまいがちですが、実際には様々な業界で鍼灸師が活躍していますので、鍼灸師全員が食えないというわけではありません。全体の平均と比べるとやや低いという結果はありますが、自分次第という部分があり、これはどの業界でも言えることです。
食える鍼灸師となるためには、鍼灸師としての技術力の向上に対する努力を行い、どのような施術を行う鍼灸師を目指すのかを設定する必要があります。また、独立開業を行う場合には、経営センスも重要な鍵となります。
鍼灸師となってからも学ぶことはできますが、できれば学生の間に、食えない鍼灸師にならないためにはどのようにすれば良いか考えると良いでしょう。
【参照URL】 ・賃金構造基本統計調査|令和4年賃金構造基本統計調査|厚生労働省 ・はり・きゅう業の経営実態に関する全国調査|全日本鍼灸学会雑誌69巻3号 ・令和4年民間給与実態調査|国税庁 ・令和2年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況|3 就業あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師及び施術所|厚生労働省 ・令和4年労働統計要覧 |D-4 産業別月間実労働時間数 |厚生労働省 |
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