【前編】教員向け鍼灸あま師国家試験対策(第32回に向けて)
鍼灸師
記事を書いた人
舘野 立人 先生
SENSEI CAFEパートナー
東洋鍼灸専門学校(3年学年主任)
指導経験 11年
- 株式会社ひりゅう 代表取締役
- 池袋ひりゅう鍼灸院、大塚ひりゅう鍼灸院 院長
- 国試黒本編集員
1.国家試験対策の方法
(1)問題をやらせているだけになっていないか?
3年生に対しては国家試験に準じて4択問題を多くやらせる学校さんも多いと思います。学期末試験や模擬試験はほぼ4択なのではないでしょうか。
4者択一問題はある程度「慣れ」も必要だと思います。そのため数多くの問題をやらせることには大きな意味があると考えています。
私も学生時代の2年生後半から国家試験当日までの間に、授業内も含めて1日1000問以上、トータル10万問以上はやってきた自負があります。
これくらいの数をこなすと、4択問題の解答が光って見えたり、問題を見なくても選択肢だけで答えを導き出すこともできました(笑)
授業内で4択問題をやらせる場合、ただやらせるだけではなく、問題数を減らして解答解説の時間を半分設けたり、科目ごとに問題を分け、学生自身に自分が苦手な科目や、科目ごとの苦手分野に気づいてもらうなど、問題の構成の仕方や時間配分によって様々な国家試験対策の授業をすることができます。また、通常授業では難しいと思いますが、授業外の補習などでは、成績によって対応を変えるのもよいと思います。
- ①成績上位者に対しては、ひたすら多くの問題をやらせて解答のみ配布し、間違えた問題には自分で解説を作成させる、もしくは類似問題を作成させて現状維持をはかる。
- ②成績中位の者に対しては、科目もしくは科目内のカテゴリーごとに問題を分け、自分の弱点に気づいてもらい得点アップを目指してもらう。
- ③成績下位の者に対しては、あん摩の国家試験問題のように比較的簡単な問題のみやらせ、基礎学力を身につけながら4択問題を正解できる喜びを染み込ませつつ、このままだと現役合格が難しいという危機感を募らせる。
以上はあくまでも一つの例ですが、国家試験の過去問をやらせるにしろ、ひと工夫入れることによって立派な国家試験対策となります。
(2)解答解説の重要性
オリジナルの問題を作成した場合、解答解説も同時に作成するかと思います。その際、どこまで詳細に解説を作成するかは難しいところだと思います。
「70歳の女性。加齢とともに難聴になる。腰が冷えてだるい。骨粗鬆症がある。脈は細弱。」難経六十九難に基づき補法を行う経穴はどれか。
1.曲泉・陰谷
2.少衝・大敦
3.太淵・太白
4.復溜・経渠
①必要最低限に抑えた解説
腎虚の症例。腎虚に対する六十九難の経穴は4の復溜と経渠
②情報を少し多めに入れた解説
年齢と、耳と腰、骨の症状があるため腎の虚が考えられる。腎虚に対する六十九難の治療穴は腎経の経金穴である復溜と、肺経の経金穴である経渠である。
③できる限り詳細に作成した解説
70歳という年齢からまず腎を疑い、難聴という耳の症状と骨粗鬆症という骨の問題を五行色体表にあてはめて考えると腎、「腰は腎の府」ということからも腎の問題となる。そして脈が細くて弱いのは虚証であるため腎虚証の症例と考えられる。難経六十九難は「虚すればその母を補え」なので、腎は五行では水、水の母は金である。そのため腎の金の性質をもった経金穴である復溜と、母である肺経の金の性質をもった経金穴である経渠を組合せて用いる。なお、1は肝虚の、2は心虚の、3は肺虚に対する組合せ。上記のような3パターンを作成してみました。この3つのうち一番バランスが良いのは②だと思いますが、①と③も間違いではないと思います。
①は簡略化しすぎかもしれませんが、逆にこの解説で意味が理解できない学生は基礎が入っていない可能性が高いです。
②は必要な情報は入れていますが、成績不良者にはもう少し深く突っ込んで聞いてみて、本当に理解しているのか確認してみる必要があるかもしれません。
③はものすごく詳細に書かれているため、成績不良者にとっては助かる解説でしょう。ただ、本来であれば①もしくは②の解説を見て、学生自身がここまで思い出さなければいけない内容です。そのため解説によって学生に思い出してほしい内容までカバーしてしまうことで、かえって学生の考えて思い出す力を邪魔してしまっている可能性もあります。
このように、解説の作成の仕方ひとつとっても一長一短があります。問題によって詳細な解説が作りにくかったりすることもありますが、状況に応じて様々なパターンの解説の作成ができるようになるとよいと思います。
(3)他教科にまたがった解説
私は教員になってからずっと国家試験対策の授業をもっています。基本的には問題をやってもらい、その解答解説を行うのですが、紆余曲折を経て、現在はプレッシャースタディー方式なる某テレビ番組のタイトルだけもじったやり方をやっています。
1コマの半分の時間で50問ほど解いてもらい、その後一人一人に解答を聞いていきます。そして解答が正解・不正解に関わらず、解答を導き出した経緯や、その他の選択肢について、誤っているのを選ぶ問題であれば誤っている理由など、その問題に関わるキーワードに対して徹底的に掘り下げて聞いていきます。その際、特に東洋医学臨床論で多いのですが、一つの症例から、その症例に関わるあらゆる科目に対して質問できるようにします。
「20歳の女性。陸上の長距離選手。最近、ランニング中に左膝関節の外側部に痛みを感じる。グラスピングテスト陽性。内反ストレステスト陰性。」施術の対象となる罹患靱帯で適切なのはどれか。
1.膝蓋靱帯
2.腸脛靱帯
3.前十字靱帯
4.外側側副靱帯
この問題について学生に質問する場合、皆さんならどのような質問をしますか?なかなかパッといろいろと浮かんでこないかもしれません。
ちなみに私なら、
- ①解答
- ②疾患名→これが答えられればすなわち解答の理由となる
- ③腸脛靭帯炎に対する局所治療穴と経脈名
- ④腸脛靭帯に停止する筋とその支配神経
- ⑤内反ストレステストが陽性の場合の疾患名
- ⑥膝蓋靱帯炎に対する局所治療穴
- ⑦前十字靭帯損傷に対する検査法
- ⑧外側側副靭帯損傷に対する検査法
全部ではありませんが、その学生のレベルに応じてこれらの中から選んでプレッシャーをかけつつ畳み掛けるように質問します。
科目で言えば東洋医学臨床論の症例問題ですが、②は臨床医学各論、③と⑥は経穴、④は解剖、⑤、⑦、⑧は臨床医学総論というように、他科目にまたがって解説ができると、国家試験対策にも厚みが増し、学生の理解度も上がると思います。
そのためには、西洋系、東洋系に限らず、様々な科目の知識があると国家試験対策はよりやりやすくなると思います。すべての科目ができる方はなかなかいらっしゃらないと思いますが、国家試験対策を担当するなら単一科目に特化しているより、幅広く知っているほうがよいと思います。
2.国家試験の合格基準について
(1)すべての科目をまんべんなく点数を取れるようにするのがよいのか?
教員である皆さんは国家試験をクリアしているので科目ごとに出題数が違うことはお分かりかと思います。当然、合格基準についてもしっかり理解されていると思いますがいかがですか?万が一、分かっていない方がいらっしゃるようでしたら今すぐに東洋療法研修試験財団のホームページに切り替えて確認してください!
合格基準は6割以上の点数を取る、つまりあん摩では96点以上、はりきゅうではそれぞれ102点以上です。この点数を効率よく稼ぐためには出題数が多く、かつ他科目にリンクしている科目でしっかり取れるようにするのがよいでしょう。4問の出題で、他科目へのリンクが少ない関係法規や医療概論を得意科目にしても残念ながら8点分にしかならないですが、臨床医学各論を得意科目にすれば、各論で22問+総論やリハビリにリンクしたり、東洋医学臨床論に出題されたりと、少なくとも40点分は稼げると考えればどちらを優先的に勉強させるべきかお分かりになるかと思います。(もちろん医療概論や関係法規をおろそかにしてもよいということではありませんので誤解のないように付け加えておきます)
私の考える優先科目の順位はこちらです。
臨床医学各論(は22、あ16)>経穴(は20、あ14±)>東洋医学概論(は16、あ14±)>リハビリ(は・あ12)>臨床医学総論(は・あ10) |
※()内の数字は出題数
基本的には出題数の多い順になっていますが、これらの科目は総合問題(午前はリハビリの後、午後は東洋医学臨床論の後に出題される連続文章問題)や東洋医学臨床論にも絡んできますので、出題数+αで考えていただければと思います。
もっとも出題数の多い東洋医学臨床論が優先科目に入っていない理由は、上記の科目ができるようになれば自ずと東洋医学臨床論の点数も上がるからです。逆に言えば、上記の科目ができないと東洋医学臨床論で点数は取れません。そのため優先科目に私は敢えて入れていません。
つまり、上記5科目ができる=東洋医学臨床論で点数が取れる=合格という公式が成り立ちます。
また、解剖学と生理学が入っていませんが、この二科目はすべての科目の基礎となるため、何もやらないわけにはいかないでしょう。ですが解剖学と生理学に苦手意識を強く持っている学生も多いかと思います。ですので解剖学は経穴とつながる筋肉や神経、血管を。生理学はひたすら基礎的な問題だけやってもらうのもひとつの手です。科目別だけでなく、科目のなかの項目の取捨選択もときには必要ではないでしょうか。
ただし、卒業試験の合格基準を「各科目6割以上取ること」と設定している学校さんではこの方法は通用しませんのであしからず・・・
(2)西洋と東洋、午前と午後の問題、どちらもしっかり点数を取れるべきか
皆さんの学校で定期的に模擬試験を行っているかと思います。成績の出し方は様々かと思いますが、午前の部と午後の部は分けて点数が出るところがほとんどでしょう。ではここで質問です。
ある模試の成績で、学生Aさんは、午前45点、午後65点、学生Bさんは、午前65点、午後45点でした。この二人の学生に成績表を返却する際、皆さんならどのように声掛けしますか?
二人とも合格しているからこのまま頑張ろう!とか、合計が110点だから130点以上目指そう!などいろいろ考えられると思います。しかし私からすると、心配なのはAさんです。
近年の国家試験の傾向として、午後の問題は捻りを加えた問題が多く難易度が高めで年度によってかなりバラつきがあります。それに比べて午前の問題は素直な問題が多く難易度が低めで年度によるバラつきも大きくありません。ですので、午後の問題が得意で、模試で午後の方がよく取れる学生も、実際の国家試験ではどれくらい取れるか未知数・・・となりやすいです。このことから同じ合計110点でも、私の場合はAさんには午前の点数を+10~15点上げよう!と声掛けします。そのために、どの科目で取れていないかを分析し、どうすれば午前の問題で点数アップを図れるかを検討します。そしてBさんにはこのままのペースで行こう!と言うと思います。
実際、経穴への苦手意識がどうしても克服できず、点数が10月になっても合格圏内に入らなかった学生へ、午前の問題で70点以上目指してみたら?と声掛けしたところ、午前でしっかり取れるようになり無事合格したことがあります。
もちろん全員に対してこのような声掛けをするわけではありません。国家試験に合格できるか否かの瀬戸際の学生に対して最終手段としてこのように伝えることがあります。
(3)はりきゅう理論とあん摩理論の重要性の違い
一昔前の国家試験では、理論系の問題10問のうち、6問以上正解しないと合格できないという時代があったそうです。現在の柔道整復師国家試験の必修問題のような位置付けでしょう。現在そのような縛りはないため、私ははりきゅう理論は最後の最後に見直すくらいでよいと考えています。
理由は合格基準です。はり・きゅう試験それぞれの共通問題160問に、はり理論10問、きゅう理論10問の合計170問の6割=102点以上で合格となるため、どんなにはりきゅう理論を得意科目にして10点取れるようになっても、共通問題で92点以上取れなければ絶対合格できないのです。むしろ、共通問題160問で102点以上取ってしまえばはりきゅう理論が0点でも合格できるため、前項でお話しした優先科目にもはりきゅう理論は入れていません。
ではあん摩理論はどうかというと、160問のうち、あん摩理論は12問あるため、これはおろそかにできません。また、東洋医学臨床論でも技法を絡めて出題してくることがあるため、あん摩理論は優先科目として考えてもよいでしょう。
(4)少ない労力で効率よく合格へ近づけさせるために
このように、国家試験に合格するためには満遍なくすべての科目で点数を取れる必要はないのです。勉強が苦手で点数がなかなか伸びない学生ほど、いろいろな科目に手をつけてしまって取っ散らかっていることが多いです。模擬試験の成績も、満遍なく取れない学生もいることでしょう。そのような学生に対してこそ、問題数の多い科目から点数を取れるようにすることが必要です。
できれば一科目、多くても2~3科目だけに集中させて勉強させるのがもっとも効率がよい方法だと私は考えています。