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あん摩マッサージ指圧師は食えないといわれる理由と実態

あん摩マッサージ指圧師(以下、マッサージ師)の職について調べると、心配な噂が耳に入ってきます。「給与が低い」「労働時間が長くて厳しい」といった話は、これからマッサージ師を目指す人々にとって大きな不安要素ですよね。

実際のところ、マッサージ師としての生活は本当に厳しいのでしょうか?この記事では、マッサージ師を目指す学生及び、実際にキャリアをスタートしたばかりの方々が抱える疑問に対し、経験豊富な筆者がズバッと解説を行います。

あん摩マッサージ指圧師は食えない!?

「マッサージ師は食べていけない」という声が時折聞かれますが、こういった見解は実際のデータと照らし合わせると、必ずしも正確ではありません。結局、「食べていける」のか、「食べていけない」のかについてお答えします。
 

あん摩マッサージ指圧師の実情

第一に、マッサージ師は専門職にして、数少ない医療系の国家資格です。
ですから、その専門性と社会的需要により、一般労働者と比較しても十分な収入を得ています。

後述しますが、同じマッサージ師の名称で勘違いされることが多い、「整体」や「もみほぐし」の業種の存在です。日本国内におけるあん摩マッサージ指圧師が行う行為にはこれら「整体」や「もみほぐし」などが含まれており、その行為をあん摩マッサージ指圧師の資格なしに行う場合は、違法行為となります。(あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律、第1条及び第13条の7の第1条)

いわゆる街中によく見るような「もみほぐし〇〇円」「〇〇整体院」「リラクゼーションケア」のような店舗はすべて違法であり、ここで言及する(医療国家資格者としての)マッサージ師を示すものではなく、技術も学びの水準も大きく異なり、また国家の制度として認められていない医療ではない範囲であることを背景として理解しておく必要があります。

厚生労働省が提供する職業情報サイト「jobtag」によると、マッサージ師の平均年収は443.3万円であり、これは歴とした令和4年の賃金構造基本統計調査に基づく数字です。一方、同時期の一般労働者の平均年収は374.16万円と報告されており、マッサージ師の年収はそれを上回ることが分かります。

このデータは、マッサージ師が安定した収入を得ていることを示しており、専門職としての経済的な実態を反映しています。しかし、なぜ「食べていけない」という誤解が生じるのでしょうか?

その一因として、初期のキャリア段階での収入の低さや、地域による給与の差異、さらには独立開業に伴うリスクなどが挙げられます。多くの場合、地方での給与水準は都市部に比べて低い傾向にあり、これが誤解を招く一因となっている可能性があります。

jobtagでは、年代毎、都道府県毎の年収も報告しており、20代前半の年収は338.53万円とあります。ただし、社会保険料なども含んだ額なので、実際に手元に残る月額を求めてみたいと思います。仮に、社会保険料などが総支給額の20%の場合、

338.53万円(年収)×0.8=270.82万円(手取り額)
270.824万円÷12か月=22.57万円(月額)

上記は、全国平均の額です。続いて、地域による格差について考えていきます。全年齢の平均年収で最高額は山口県の578.5万円、最低額は高知県の331万円とあります。つまり、20代前半の平均年収との比率を求めるには、

比率=338.53万円(20代前半の平均年収)/443.3万円(全年齢の平均年収)

となります。では、20代前半の平均年収の最高値と最低値を求めていきます。

20代前半の平均年収の最高値=578.5万円×比率=433.13万円
20代前半の平均年収の最低値=331万円×比率=252.36万円

手取り額は、

最高値の手取りの月額=433.13万円×0.8 ÷12か月=28.8万円
最低値の手取りの月額=252.36万円×0.8 ÷12か月=16.82万円

つまり、地域によっては月額17万円程度の可能性があるということです。
 

腕がモノをいう世界

一方で、マッサージ師の給与は、勤務先の規模や経験年数によって大きく異なります。経験を積み、技術を磨くことで高い給与を得ることも可能で、キャリアの進展とともに経済的な報酬も向上します。それというのも、治療院によっては歩合制を導入している場合があるからです。

例えば、基本給が月額25万円+歩合制(歩合率が50:50)の場合、仮に一人当たりが60分6000円を月に100人施術したとすると、

25万円+(100人×0.3万円)=55万円

このように考えると、マッサージ師の給与が低いと感じるかどうかは、個々の生活状況や価値観、キャリアの段階によって異なるということです。また根本的な話をすれば、給与が月17万円だとしても生活費をカバーし、自己実現や余暇を楽しむ余裕があると感じるなら、それは労働に見合う報酬です。

つまるところ、キャリアを積み、スキルを高めることで、給与の上昇と共に、より充実した生活を送ることが可能な上に、専門職としてのプライドと社会的な貢献を実感することができるマッサージ師は「やりがい」のある仕事ということです。
  

 

あん摩マッサージ指圧師が食えないといわれる背景

しかし、マッサージ師が「食べていけない」という噂がある以上、不安が拭えたわけではありません。そこで、「食べていけない」と言われる要因をさらに深堀りしてみましょう。

労働に見合う報酬ではない?

マッサージ師の給与を考えるときに大切なのは、労働時間と報酬のバランスです。近年は労働者の健康と福祉への意識向上と働き方改革の推進により、方々で残業時間の削減や有給休暇の取得促進などが進んでいます。

しかし、マッサージ師の場合は勤め先によって、中々働き方改革が進んでいない現場が割とあります。例えば、治療院や接骨院の場合は、拘束時間が長いことで知られます。

午前の受付時間が9時~12時、午後が14時から19時だったとして、清掃業務もあるため出勤は1時間前の8時、19時の受付終了なので、施術終了は場合によっては21時近くなることも。後片付けを終えたら22時近くなることもあります。

20代前半の月収17万円に残業代が入っても、割に合わないなと感じる場合はあるかもしれません。訪問マッサージの場合も近場の利用者が多ければ良いですが、距離がある場合は移動時間ばかりで割に合わないこともあります。

令和6年度のあはき療養費の改定案によると、往療料の距離加算が廃止となり、代わりの特別地域加算が創設されるようですが、実質減額です。ガソリン代高騰は当分続くことが予想されるので、非常に苦しい状況と言えます。

また、専門的な技術や知識が必要な職業でありながら、そのスキルが十分に評価されていないと感じることが、給与が低いと感じる理由の一つです。
上述したように残念ながら、巷には無資格の自称マッサージ師や民間資格で類似の行為を行っている施設が実際多くあります。

そういった現状ではありますが、世の中から見捨てられた訳ではありません。特に介護の分野での需要の高まりに伴い、マッサージ師の専門性が再評価され、給与の上昇に繋がっています。機能訓練指導員としてのニーズは確実に高まっており、処遇にも影響を与えています。  

あん摩マッサージ指圧師として働く人が増えている

前述の通り、日本の高齢社会が進むにつれて、健康維持やリハビリへの市場のニーズは増大しています。マッサージ師はこういった社会的需要を背景にその職業的地位を確立しており、それはつまり、マッサージ師同士の競争化が激化してきていると言えます。

健康意識の向上とストレス社会におけるリラクゼーションやメンタルヘルスケアの重要性が注目されており、病院などだけでなく、スポーツチームやフィットネスクラブ、企業の健康管理部門など、活躍の場が広がっています。ですが、実情はそう簡単なものではありません。

例えば、ヘルスキーパーを目指すにしても福利厚生にマッサージ師の施術を取り入れている企業は少なく、その間口は狭いです。

実際、筆者の知り合いでもヘルスキーパーは一握りであり、その方たちも施術に専念しているわけではなく、その企業に勤める傍ら施術をしているといった関わり方が現状です。(筆者に友人が少ないのは置いといて。)

スポーツトレーナーも本業とする方はごく少数であり、その上アスレチックトレーナーなどの他資格とダブルライセンスが基本なように思います。

ただ、プロチームとの契約ができれば専門家としてのスキルを活かす機会が増え、貴重な経験を積める上に高い報酬と名声を得ることも可能なので憧れてしまうのですよね。

競争化の一番の要因は、独立開業できることでしょう。令和3年以降は、療養費の取り扱いについては施術管理者の要件を満たした者のみが可能として、1年以上の実務経験がなければないとなりましたが、それ以前は国家試験を合格すれば即開業していたわけです。

こういった現状は、マッサージ師として生計を立てていく障害ではあります。しかし、これらを前提に適切なキャリアプランが立てられれば、マッサージ師は「食える」職業であり続けることができます。市場の変化に適応し、自己研鑽を怠らない姿勢が成功への鍵です。
 

キャリア発展と市場適応のハードル

現代のマッサージ師としてのキャリアは、専門性と合わせて市場の変化に順応し、自己のスキルセットを拡張する能力も求められるということです。医療、ウェルネス業界と裾野が広がるのに伴い、専門家としての自己ブランディングやマーケティングの重要性も増したのです。

自身のサービスを市場に適切に位置づけ、顧客基盤を拡大するためには、治療技術だけでなくコミュニケーション能力、ビジネス運営の知識、そしてデジタルマーケティングなどの新しいスキルが不可欠です。それも、継続的な学習と専門性の更新が絶対です。

医療系の教科書でさえ5年で古書となる程、世界は日進月歩です。IoTの進歩は途轍もなく早く、そして圧倒的な影響力を持っています。

逆に考えれば、多角的なアプローチこそが自身のキャリアをより持続可能で、市場のニーズに合致したものにすることができるということです。
 

独立開業はマッサージ師にとっては理想であり、自身の専門性を活かし独自のビジョンを追求する機会を与える魅力的なキャリアパスの一つですが、多くの挑戦とリスクを伴うため経済的な不確実性をもたらす可能性があり、 最も成功が保証されていない選択肢です。

開業するにあたって、競合との差別化やターゲット顧客層の明確化するための市場調査は不可欠ですし、激しい市場競争の中で生き残るためのビジネスプランの策定は事業の肝です。資金調達なども開業プロセスの最初の難関です。

そして、いずれも時間と労力を要する上に、並行して進めていくのは複雑です。そういった努力に反して、市場の変動や経済状況の変化が、予測不能な障壁を生み出すこともあります。

開業後も新規顧客の獲得や院の知名度向上のために、継続的なマーケティング戦略などが必須です。自費診療のメニュー拡充や副業、セミナーの開催などは収入源を多様化する手段ではありますが、これらにも追加の時間と資源が必要です。

開業はマッサージ師にとって大きな飛躍のチャンスを提供するかもしれませんが、計画的な準備と戦略、そして何よりも持続可能なビジネスモデルがあって成し遂げられます。専門性を謳った「自己満足」なサービスの提供だけではない、ビジネスとしての洞察と柔軟性も重要なのです。
  

あん摩マッサージ指圧師の将来性

「マッサージ師は食えない」という噂を分析していくと、業界が直面している課題はありつつも、楽観的な未来像を描くことができると思います。経済的な不確実性や市場の飽和といった問題は確かに存在しますが、自身のキャリアを形作る上での重要な考慮点であるとも言えます。

高齢社会の進展は、大きなチャンスです。健康維持やリハビリの需要増加と予防医療やウェルネスへの関心が高まりにより、マッサージ師の役割はさらに重要になり新しいサービスの開発や市場の拡大も期待できます。

新しい治療法や技術の進化にしっかり適応し、専門性に関しても学習を継続的に行うことが、ひいては無資格マッサージ師や民間資格業者と医療国家資格者としてのマッサージ師との差別化を明確にするとともに、市場での競争力を保ち自身のキャリアを発展させることに繋がるのです。

結論、自己研鑽を続けること、そして方々にアンテナを張っておくことで、安定した生活基盤が確立され、社会貢献と自己実現が達成されるということです。そして、これらが可能であるマッサージ業界は、成長し続ける職業であるということを示しています。
  

まとめ

マッサージ師の職は、専門性と社会的需要により安定した収入を得る可能性があります。初期キャリアの収入の低さや地域差、独立開業のリスクが「食えない」という誤解を生む一因ですが、経験と技術の向上により、給与は増加し、やりがいのあるキャリアを築けます。「継続」が成功の鍵です。

市場の変化に適応し、継続的な自己研鑽を行うことで、あん摩師は将来的にも成長し続ける職業であると言えるでしょう。

【参照URL】
厚生労働省 職業情報提供サイトJOBTAG あん摩マッサージ指圧師
厚生労働省 令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況
厚生労働省 第32回社会保障審議会医療保険部会 あん摩マッサージ指圧、はり・きゅう療養費検討専門委員会配布資料
公益社団法人 日本あん摩マッサージ指圧師会 無資格・無免許問題に関して。
厚生労働省 第153回社会保障審議会介護給付費分科会資料
厚生労働省 令和6年度介護報酬改定について
厚生労働省 療養費の改定等について

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