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あん摩マッサージ指圧師の年収と月収や時給について

数少ない医療系国家資格の仕事である、あん摩マッサージ指圧師(以下、マッサージ師)は地域の保健衛生と健康増進を支えるやりがいのある仕事です。これからマッサージ師を目指す方や駆け出しの方が気になるのはその生活感、つまり「お金事情」でしょう。きっちり解説します。

 

あん摩マッサージ指圧師の年収

お金は汚いものではありません。むしろ、マッサージ師としてのキャリアを思い描くのに重要な指標となるからです。

一般労働者との年収比較

マッサージ師の年収は厚生労働省(以下、厚労省)が提供する職業情報提供サイト「JOBTAG」で報告されています。比較として、厚労省の令和4年賃金構造基本統計調査ともう一つ、国税庁の公表する民間給与実態統計調査と申告所得税標本調査のデータをまとめて表にまとめました。

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年収(万円)
マッサージ師(JOBTAG報告) 443.3
一般労働者(厚労省報告) 374.2
給与所得者(国税庁報告) 民間 給与所得者(全体) 457.6
給与所得者(正社員) 523.3
給与所得者(非正社員) 200.5
給与所得者(医療福祉) 408.5
公務員含む給与所得

748
事業所得者 472.8
年収(万円)
マッサージ師(JOBTAG報告) 443.3
一般労働者(厚労省報告) 374.2
給与所得者(国税庁報告) 民間 給与所得者(全体) 457.6
給与所得者(正社員) 523.3
給与所得者(非正社員) 200.5
給与所得者(医療福祉) 408.5
公務員含む給与所得

748
事業所得者 472.8

JOBTAG及び厚労省のデータは、恐らく総支給額と思われます。よって、この値から社会保険料等が引かれた額が手取り額です。国税庁のデータに関しては明確に給与所得、としていますのでこの値に更に非課税分が上乗せされます。

まとめると、全職種の中でマッサージ師の給与は高くはないものの、医療福祉業の中では平均値以上であることが分かります。
 

年齢別に見た収入ピーク

収入は、年代によっても差があります。JOBTAGによると、マッサージ師の収入ピークは50代前半だったので、下限を一般的な資格取得直後の20代前半として調査していきます。

例によって、厚労省、国税庁のデータを参考にマッサージ師の多くの最終学歴である専門学校卒(以下、専門卒)と、民間所得者全体の同年代の数値を一覧にまとめると、

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年収(万円)
マッサージ師 20代前半 338.5
50代後半 540.4
専門卒(全体) 20代前半 264.4
50代後半 415.8
民間所得者(全体) 20代前半 272.5
50代後半 546.4
年収(万円)
マッサージ師 20代前半 338.5
50代後半 540.4
専門卒(全体) 20代前半 264.4
50代後半 415.8
民間所得者(全体) 20代前半 272.5
50代後半 546.4

総じてマッサージ師は他の専門卒よりも生涯を通じて高い年収を得られていることが分かります。ピーク時の年収は、先の表の民間正社員の平均給与所得とも遜色がないことが分かります。一方で、全年齢の平均年収でマッサージ師が劣る原因は、特定の年齢で平均年収を落としているためです。

JOBTAGによると40代前半までは給与は上昇しており、事実平均年収は512.72万円まで到達しますが、40代後半で456.24万円まで落ちます。恐らく、この時期は独立開業をするマッサージ師が多いのだと類推されます。独立開業のメリット、デメリットに関しては、後半で深堀していきます。
 

性別による影響

もう一点、性別による収入差についても見ていきましょう。一般的には、性差も収入を決める大きなファクターです。こちらも厚労省データを参考に専門卒の男女ごとに平均収入と、国税庁のデータから民間所得者の男女ごとに平均給与を表にしました。

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年収(万円)
専門卒(全体) 男性 379.2
女性 323.3
民間所得者(全体) 男性 563.3
女性 313.7
年収(万円)
専門卒(全体) 男性 379.2
女性 323.3
民間所得者(全体) 男性 563.3
女性 313.7

このように男女共同参画を謳っていますが、実際は年収で50万円~250万円の開きが存在します。それではマッサージ師はというと、実は独立開業割合が非常に大きく、事実、JOBTAGの報告でも約7割のマッサージ師が自営などを選択しています。

そのため、マッサージ師においては性別による年収の差はあまりないものと考えられます。
  

 

都道府県別の年収と月収

マッサージ師の年収において、地域性はどの程度の影響を与えるものでしょうか。一般的には、人口が多く経済的に栄える都会圏のマッサージ師の方が年収が多いのか、はたまたそうではないのか生活コストなども含めて考えてみます。
 

都道府県別の年収

JOBTAGでは各都道府県の平均年収に関しても報告しており、年収の最高値は山口県、次いで徳島県、最低値は高知県、次いで秋田県でした。人口の多さや物価の高い首都圏が年収の上位にくるものと思いがちですが、年収の最高値も最低値も地方という理解しづらい結果となっています。

そこでより地域特性を理解するために、施術所数について調査してみます。厚労省より令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況でマッサージ院及びマッサージ・鍼灸院、接骨院の施術所数を報告はしているものの、残念ながら都道府県別の数に関しては不明です。

もう少し調べてみると、全国柔整鍼灸協同組合で接骨院数に関して都道府県別の報告がされていました。接骨院もマッサージ師の就職先の選択肢ですので、今回はこちらのデータを参考にします。

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東京都 大阪府 山口県 徳島県 秋田県 高知県
年収(万円) 432.9 438.1 578 574.5 331.5 331
施術所数(順位) 2 1 40 39 42 45
人口10万人あたりの施術所数(順位) 12 1 45 6 30 29
増減率(順位) 33 46 2 35 28 36
東京都 大阪府 山口県 徳島県 秋田県 高知県
年収(万円) 432.9 438.1 578 574.5 331.5 331
施術所数(順位) 2 1 40 39 42 45
人口10万人あたりの施術所数(順位) 12 1 45 6 30 29
増減率(順位) 33 46 2 35 28 36

大都会東京都と施術所数が全国1位の大阪府、年収の多い山口県と徳島県、年収の低い秋田県と高知県をまとめたのが上記の表となりますが、大阪府は施術所で溢れかえっていることが分かります。それに比べると、東京都は人口が多いこともあってか多少余裕があるようですが過密は過密です。

山口県は施術所の増加率が高く年収も高いことから、医療に対するニーズが高いことが予測されます。その他、徳島県は人口当たりの店舗数と年収の高さから安定的な需要と供給であること、秋田県は需要と供給のバランスが悪いこと、高知県は地域の需要が低いことが予測されます。
 

都道府県別の月収

もう少し詳細に地域の経済状況を把握するために、JOBTAGの求人統計データを参考に考えていきます。以下は、求人賃金と求人数と求職者数の比率を表す有効求人倍率の一覧です。

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全国平均 東京都 大阪府 山口県 徳島県 秋田県 高知県
月収(万円) 25.7 22.7~31.2 22.8~31.4 20.5~29.3 20.6~22.9 19.6~27.2
有効求人倍率 0.82 1.09 0.86 0.96 1.76 2.15
全国平均 東京都 大阪府 山口県 徳島県 秋田県 高知県
月収(万円) 25.7 22.7~31.2 22.8~31.4 20.5~29.3 20.6~22.9 19.6~27.2
有効求人倍率 0.82 1.09 0.86 0.96 1.76 2.15

先程の表と合わせて分かることは、

・東京都:年収、月収は平均値、増減率は鈍く、有効求人倍率も1付近のため、需要と供給のバランスが取れているようです。人口あたりの施術所数は上位であることから市場は狭い可能性が高く、結果、顧客の奪い合いになっていることが予想されます。

・大阪府:年収、月収は平均値、人口あたりの施術所数からも分かるように、激戦区です。買い手市場であり、価格競争も激しいことも予測でき、それが年収に影響していることが考えられます。

・山口県:年収は最高額であり月収も平均値以上、増加率も全国で2番目に増加している一方、有効求人倍率の値からも施術所数と求職者数のバランスが取れているようです。雇用者とすれば提示額に見合った人材を確保できる、被雇用者も能力と給与が適切に評価されやすいです。

・徳島県:年収は高額ですが月収は低く、人口あたりの施術所数は全国平均以上、増減率は低いものの有効求人倍率は高いことから、市場は飽和状態で新規参入は難しいが、施術所単位で見れば人材不足が伺えます。また、雇用者数の多さも予測されます。

・秋田県:年収は低いですが月収は平均以上、人口あたりの施術所数は少ない割に有効求人倍率が全国平均を上回っていることなどから、圧倒的に人材が不足しています。年収が低いのは、顧客一人あたりの単価が低いことなども考えられます。

・高知県:年収は最下位、月収等のデータはなく、施術所数は秋田県よりも少ないながらも人口あたりの施術所数は高知県が上回ることから、市場が小さいと思われます。既存顧客との密な関係を築けているのであれば、ある意味で安定的な環境なのかもしれません。
 

これがリアルな「生活感」

生活コストにつても考えてみます。総務省が公表している令和4年の消費者物価地域差指数によると、全国平均を100とした場合に物価水準が最も高いのは東京でした。以下に、抜粋した地域の物価順位と内訳を一覧にします。

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東京都 大阪府 山口県 徳島県 秋田県 高知県
総合 1 12 8 19 25 12
食料 3 26 6 13 29 16
住居 1 11 8 21 38 15
光熱・水道 42 47 6 21 11 28
家具等 3 23 14 21 17 23
被服等 14 29 25 10 16 9
保健医療 2 26 4 43 33 7
交通・通信 1 8 35 42 21 17
教育 5 2 45 20 44 24
教養・娯楽 1 6 34 25 14 29
諸雑費 11 21 25 18 13 10
東京都 大阪府 山口県 徳島県 秋田県 高知県
総合 1 12 8 19 25 12
食料 3 26 6 13 29 16
住居 1 11 8 21 38 15
光熱・水道 42 47 6 21 11 28
家具等 3 23 14 21 17 23
被服等 14 29 25 10 16 9
保健医療 2 26 4 43 33 7
交通・通信 1 8 35 42 21 17
教育 5 2 45 20 44 24
教養・娯楽 1 6 34 25 14 29
諸雑費 11 21 25 18 13 10

予想通り、東京都は物価が高いことが分かりますが、山口県の物価が高いことにも注目してください。特に、住居、光熱・水道などの固定費が高いことを考えると、山口県の求人額の高さは地域の物価に合わせた金額であることが分かります。それに比べると、東京都の賃金は苦しいですね。

マッサージ師の生活の中央値は、恐らく物価と賃金バランスから大阪府でしょう。他の地域はというと、徳島県も生活コストに合わせた賃金設定でしょうし、秋田県も予測通りだと思いますが、高知県に関して、筆者としては想定よりも物価が高いことから被雇用者には厳しい環境に思います。

単身者であれば、マッサージ師の年収で快適に生活は可能だと考えます。総務省の家計調査でも単身者の月の消費支出の平均は17.8万円と報告があります。しかし、家庭を持つとなると話は変わります。4人世帯の月の消費支出の平均は31.7万円だからです。共働きか、多少の節約は必要でしょう。

以上を踏まえて、マッサージ師は同じ専門卒と比べて多少高収入を期待できますが、家庭をもつことを想定している場合には苦しい給与です。生活コストなどを勘案すると、都会でも地方でも然程収入差はないので、早期から計画的に貯蓄を始め、必要に応じて副業や共働きを検討しましょう。
  

あん摩マッサージ指圧師が年収を高める方法

会社員マッサージ師の前に立ちはだかる収入の大きな壁。その壁を乗り越えて、最大限年収を上げていく方法について考えていきます。
 

専門技術の向上と資格取得

マッサージ師の給与の形態には、仕事の出来高に左右されない①固定給と、仕事の出来高に左右される②歩合給があります。被雇用者の場合、雇用者は最低賃金を保証しなければならないので、実質は固定給+歩合給の③一部歩合給が基本です。

業務委託の内容によっては100%出来高の④完全歩合給もありますが、例外です。そこで、歩合制を一部導入している治療院に勤めていると仮定して、歩合制がどれほどの効力を持つか検証します。

歩合率は代金の50:50だったとして、1日8時間、月20日勤務、一日施術人数は固定で5人、一人当たりの診療単価も固定で1万円として計算していきます。ちなみに、厚労省より令和6年6月時点の最低賃金の全国平均は1004円でしたので、

固定給(20日×8時間×1004円)+歩合給(20日×5人×5000円)=6606.4千円

このように歩合給があることで、単純計算で年間600万円も差がでます。これも全て腕次第ということです。手技や話術、雰囲気づくり、見た目さえも重要な武器です。その中でも長期的に取り組みたいのは、技術のアップデートや幅を広げるための資格取得です。

研修会や学会への参加といった他に、柔道整復師(以降、柔整師)や鍼灸師、アスレチックトレーナーなどの資格取得は技術の底上げに繋がります。
 

マーケティングと顧客基盤の拡大

資格取得は、他のマッサージ師との差別化という側面もあります。前述の徳島県のように、市場としては飽和状態にある可能性がある場合、雇用者とすれば他とは違う技術を持つ人材は、既存の顧客とは別の顧客層を刺激するチャンスです。

つまり、働く側とすれば賃金交渉のチャンスがそこに生まれるということです。対応可能な顧客が増えることはもちろん、例えば、研修会やイベントを通じて他の治療家と繋がることで、他施設やフィットネスクラブとの相互紹介のネットワーク構築ができれば社内表彰ものです。

具体的な資格で考えると、外傷治療の幅を広げるのであれば柔整師資格、不定愁訴(原因が判然としない心身の症状)なら鍼灸師資格、アスリート支援であればアスレチックトレーナー資格などが一般的な選択肢です。

後述の独立開業にも関わりますが、訪問マッサージの場合に顧客の距離が近ければ近い程効率的に稼げます。そのため、介護施設との提携実現は収入アップの大きな機会となります。複数の資格を持つことで、サービスの価値を高めることもできるでしょう。
中でも、ケアマネージャー資格を取得することは、介護施設への売り込みはもちろん、抱える顧客の介護支援プランに訪問マッサージを組み込むチャンスとなります。もちろん、先述の資格も開業時の強みとなることは間違いありません。

忘れてはいけないのは、費用対効果です。資格取得には時間と労力と資金が必要になります。柔整師資格の場合、指定の養成学校での3年間の在籍と必要単位の取得、国家試験での合格が最低ラインとなります。必要経費も400万円程度と決して安くはありません。
顧客基盤の拡大は重要ですが、それに必要なコストを冷静な目で判断するためにも、ターゲットや自身の将来設計を明確化することが大切です。 

訪問マッサージ専門の独立開業

高収入を目指すとき、最も期待ができる手段は会社員の壁をぶち破り独立開業することです。先程の一部歩合制の例で言えば、開業をすれば100%自分の取り分なので月100万円の売上です。実際は、ここから経費が引かれますが、会社員も社会保険料などを引かれるので何ら変わりありません。

個人事業主は手軽に開業できますが、特に出張専門のいわゆる「訪問マッサージ」を中心とした経営スタイルであれば、初期投資は限りなく少ないのでさらに気軽です。高い節税効果もあり、収集客能力があれば間違いなく儲か上、何よりも自分の目指す治療を行うことができます。

ただし、独立開業の問題点は収入の不安定性です。会社員と違い収入は一切保証されず、雇用保険も掛けられないですし、退職金も放っておけば0円です。社会的信用も低いのでローンも組みづらく、収益が一定以上なら法人化することもできますが、それも経営の見極めが肝心です。

このように、独立開業には大きなリターンもある分、大きなリスクも伴います。そういったことからも多くの方が実践する確実な手段は、副業をすることで社会保障のリスクヘッジを取りつつ、小規模で開業して徐々に拡大していくことでしょう。

副業の選択には、競業避止義務もあるため上手に選ぶ必要がありますが、賢く副業をすれば本業の売上増加にも繋がります。また、SNSなどのオンラインマーケティングなども同時並行で進めることも大切です。お金を掛けずに広く広告できる上に、軌道に乗れば広告収入も期待できます。
  

まとめ

マッサージ師の年収は、他の専門職と比較しても高い傾向にありますが、地域を問わず平均して高収入の仕事ではありません。独立開業することで高収入を期待することは可能ですが、収入の不安定性やリスクも伴います。

技術の向上や資格取得は会社員であれ事業主であれ、副業する上でも収入アップの基本です。自身のブランドを明確化して、適切なキャリアプランを立てることが大切です。

 
【参照URL】
厚生労働省
職業情報提供サイトJOBTAG あん摩マッサージ指圧師 統計データ

厚生労働省 令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況
国税庁 標本調査結果
令和4年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況
総務省統計局 統計データ 小売物価統計調査(構造編) 調査結果
総務省e-start 家計調査 / 家計収支編 単身世帯 詳細結果表

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