柔道整復師が年収1000万円を達成するための完全ガイド
キャリア・働き方
柔道整復師
柔道整復師(柔整師)に限らず「年収1000万円」はよく具体的な数字目標として語られます。
年収1000万円を目指すことは、柔整師としての技術や知識の向上やキャリアパスを広げることにもなる一方で、果たして本当に「年収1000万円」は可能なのでしょうか?
今回は、そんな高収入を具体的に目指す方必見の記事となります。
柔道整復師が年収1000万円を目指す現実性
柔整師が果たして年収1000万円を達成することはできるのでしょうか?具体的な数値を交えて検討してみます。
年収1000万円の壁
結論から言いますと、柔整師が年収1000万円を達成することは難しいです。中には年収1000万円を超える方はいますが、公益社団法人 日本柔道整復師会の平成30年度年間給付額の報告によると、会員全体の21.9%は1000万円以上の売上とあります。
あくまで売上高なので、ここから人件費、家賃、光熱費などの税金などを差し引いた額が純利益です。この年の純利益が1000万円であって初めて、年収1000万円ということになります。
・純利益=営業利益-税金(税率×営業利益)
営業利益とは売上高から費用総額を差し引いたもので、この営業利益の売上高に対する比率は企業の収益性を見る指標として使われます。これを売上高営業利益率と呼びます。
・売上高営業利益率=営業利益率(売上高-費用)/売上高×100
総務省統計局の平成24年の報告によると、医療・保健衛生の売上高営業利益率は10.4%でした。これを参考に、法人税などの合計が税率20%の場合、純利益1000万円を達成するための売上高を求めます。まず、営業利益は以下の式となります。
・1000万円(純利益)=営業利益-0.2×営業利益
営業利益=1000/0.8=1250万円
この営業利益に対する売上高は、
・10.4(売上高営業利益率)=1250(営業利益)/売上高×100
売上高=1250×100/10.4=12019.23万円
つまり年収1000万円には、1. 2億円以上の売上高が必要だということです。
正社員で勤めた場合のハードル
では、施術所の正社員で勤めれば、経費も関係ないので年収1000万円が達成し易いでしょうか?厚生労働省(厚労省)の職業情報提供サイトjobtagによると、柔整師の平均年収は443. 3万円とのことです。歩合制だとしても、1000万円は難しいです。
もし院長などの役職がついていたとしても、残念ながら企業の営業規模に左右されます。どうしても勤めながら年収1000万円を達成したいのであれば、後述のSNSなどを活用するといった多角的な視点を持った働き方ができるかが鍵になるでしょう。
独立開業 という手段
医療・保健衛生の売上営業利益率は10.4%とありましたが、つまり、利益は売上全体の10%程度しかないということです。 1店舗で1.2憶円の売上を上げることは大変です。現実的に、多くの接骨院は最初の院の経営が軌道に乗ると分院を検討すると思います。
そのあたりも考慮しつつ、具体的に数字を使って考えていきます。
売上のバランス
経営の分野でよく言われるものに、パレートの法則というものがあります。イタリアの経済学者パレートが提唱したものですが、簡単に言えば「売上の8割は、全顧客の2割が生み出している」というもので、2:8の法則とも呼ばれます。
この法則の優れている点は、様々な観点に当てはめて考えることができることにあります。例えば、客層に注目すると多くの企業が、「2:8=新規顧客:常連客」という比率になると言います。
つまり、一定の常連客(医療サービスにおいては、何か外傷を負った際に真っ先に数ある治療院の中から選んでもらえる人)の売上に支えられて企業は成り立っているという考え方です。
そして、常連客のメリットは売上だけに留まりません。新規顧客と違い、広告費や商品紹介のコストが抑えられる上に、常連客自身が広告塔となり口コミなどで新規顧客の獲得をしてくれます。
ウィンザー効果と呼ばれますが、人は自己の意見より他者の意見を信頼しがちです。常連客が呼び水となって、次の常連客になる可能性はあります。そういった意味で、常連客だけを大切にすればいいという考え方は間違いでしょう。
この法則から分かることは、
・店舗数の2割が売上の8割を生むなら、店舗が増えれば売上が上がる。
・顧客の2割が売上の8割を生むなら、顧客のニーズに応える選択肢が増えれば売上が上がる。
・一部の店舗が不振でも、店舗数が多ければ事業全体への影響は少ない。
また他にも、広告などの効果も増大するため、競合他社との優位性も確保しやすいなど、複数店舗を持つメリットは多分にあります。
客単価の検討
一番簡単に年商1.2憶円を達成するには、一人当たりの客単価を上げることでしょう。保険内治療の一人当たりの客単価を考えてみます。令和4年の柔道整復療養費の改定案を見ると、最も単価の高い骨折の整復料で5.5千円から11.8千円範囲です。
初診料や固定を含めても一人当たり1.5万円程度です。しかし、施術所へ来院する患者の多くが捻挫や挫傷ではないでしょうか。その部位数も4部位以上は3部位までの料金に含まれるため、とても骨折程の単価にはなりません。
先述の通り、顧客のエンゲージメントが高ければ単価の高い自費治療の利用も期待できます。一人当たりの客単価が自費治療も含めて2万円になったとして、一日当たりの必要来院数は(年中無休と仮定した場合)以下の式になります。
一日当たりの必要来院数=1.2憶円÷365日÷2万円(保険内治療+自費治療)
=約32.9万円(一日当たりの売上)÷2万円
=約16.5人
つまり、一日当たり約17人の来院数で達成です。当然、客単価が下がればその分だけ人数が必要になります。これが、一人当たりの客単価が1.5万円の場合は約21人、客単価1万円なら約32.9人となります。そもそも、一人で365日は現実的ではありません。
固定費の視点からみた年収1000万円
材料費などがほとんどかからない接骨院ですから、経費の多くは人件費などの固定費です。人件費の比率の指標となる付加価値額給与総額率は、総務省統計局の平成24年の報告によると、医療・保健衛生は78.5%とあります。この数値を利用して、人件費を求めてみましょう。
・付加価値額給与総額率=付加価値額/給与総額×100
このとき、付加価値額とは売上高から売上原価を引いたものであり、売上原価は売上高から営業利益を引いたものですので、付加価値額=営業利益です。ここで、総給与額=人件費と仮定します。すると、以下の式ができます。
・人件費=営業利益/付加価値額給与額率×100
人件費=1250/78.5×100=1592.36万円
つまり、約1590万円は人件費に割けるわけです。
柔整師の平均年収443.3万円で考えれば、3.6人は雇えます。年中無休ならやはり、最低限必要な人数でしょう。ただし、近年、コンビニエンスストアよりも多いと言われる接骨院業界です。転職が容易なため、スタッフに継続的に就職してもらうことは大変でしょう。
特に少人数で回す場合、高単価のサービスを提供する必要があるため、熟練のスタッフが求められます。そうなると、人件費は削りづらいですね。では、その他の家賃や光熱費などの固定費の削減ができるかと言えば、限界があります。
2027年からリースの計上基準が改正されます。ざっくり言えば、それまでリース料は経費として収益に計上されていたものが、改正以降は負債として資産に計上されます。この改正で、会計業務は今よりも煩雑するでしょう。何よりも、自己資本比率が低下します。
多くの接骨院で導入している医療機器はリースでしょうから、これは由々しき事態ですね。インボイス制度といい、時世は決して個人事業主には優しくありません。
以上のように、1店舗での年商1.2憶円は売上と経費のバランスで考えると難しいです。しかし、店舗数を増やすためには、莫大な資本が必要です。どちらが良いかは、施術所の経営状況と今後の業績予測の見極め次第としか言えません。
年収アップのためのスキルとキャリア
年収1000万円は一筋縄ではいきません。ここでは、柔整師としてのスキルやキャリアが年収1000万円を達成にどう影響するのか考えていきます。
スペシャリストとしてのキャリア構築
年収1000万円の達成のために経営能力にばかり目が行きがちですが、土台となる柔整技術があってこそ成し遂げられるものです。なぜなら、柔整師の提供する商品とは医療サービスであり、それはつまり施術者の技術力そのものだからです。
臨床能力や患者さんとのコミュニケーション能力、店舗を含めた雰囲気づくりがそのまま顧客満足度に繋がり、顧客満足度は顧客ロイヤリティに繋がります。他の追随を許さない圧倒的な技術が、患者を繋ぎ止める大切なポイントです。
顧客の多くは、「そこらの腕のいい職人」というだけでは見向きもしません。 そこで重要になってくるのが「肩書」です。良くも悪くも肩書がある人の方を、人は評価する方向にバイアスが働きます。
いわば、飲食店によく飾られている有名人のサインのようなものが柔整師にも必要です。 肩書は、出来るだけ格があるものの方よいです。民間資格よりは国家資格、専門卒よりは大卒、大卒よりは大学院卒の方がバイアスは強く働きます。
「地元の学生スポーツに長年携わっている」と「プロ野球選手の専属トレーナーとして長年支えてきた」では、明らかに後者の方が魅力的です。当然、高度な資格や経験を積んでいるということは、それだけ専門性が高いということであり、施術者のキャリアも透けて見えます。
副業とのかけ合わせで収入アップを狙う
副業の活用は収入アップが期待できます。しかし、他業種(例えば、飲食業や建設業など)での副業や接骨院の掛け持ちでも年収1000万円は難しいです。しかし、副業の中でもハードルは非常に高いですが、SNSの可能性は馬鹿にできません。
まず基本的な知識として、SNSでマネタイズする場合、YouTubeなどの動画共有サービスを利用した広告収入と、pokotyaなどのライブ配信でのファンクラブ収入や投げ銭による収入の大きく二つに分けられます。
YouTubeなどの広告収入は再生回数で決まり、一度動画が完成すればあとは放っておくだけです。ただし、多くのサービスには要件を定めています。YouTubeの場合は以下の通りです。
・チャンネル登録者数 1000 人
・次のいずれかを満たしている:
・公開されている長尺動画の過去 365 日間における総再生時間が 4,000 時間以上
・公開されているショート動画の過去 90 日間の視聴回数が 1,000 万回以上
YouTubeパートナープログラムから引用。
この他に、個人的な能力として、動画撮影機材、編集技術、動画構成力も求められます。では、実際どれほどの収入が期待できるのでしょうか?
筆者知人の某音楽レーベルのマネージャーは、アーティストと専属契約をする目安がフォロワー数1万人だと言います。(ライブ収益や物販での収益が期待でき、企業案件も回し易くなる基準だとか。)ざっと、月収20万円前後でしょうか。(正確な数値は不明。)
これに対してライブ配信はどうかというと、動画編集などの手間もなく、またすぐに現金化されるメリットがある一方、コアなファン向けのアングラな媒体になりがちです。しかし、月収100万円を超えるライバーもいるのは事実なので、使い方次第です。
SNSの活用法
SNSにもそれぞれ特性があり、その活用次第で効果は大きく変わります。例えば、YouTubeの広告収入は再生回数の他に再生時間が長い程、広告を入れられるため収入アップが期待できます
ショート動画を自動販売機の商品ように並べて視聴者を惹きつけておき、「結果はフル動画で」みたいにして長尺動画に誘い込むといった使い方が一般的です。すると、長尺動画の肝は再生維持率ということになってきます。
また、検索結果の上位に表示にも違いがあります。YouTubeは「検索キーワード」と「関連動画」の影響が大きく、世の中の関心から外れた内容はどうやっても再生数が伸びず、さらに好みも強く反映されると言います。
対して、TikTokは視聴者の興味の動画を再生する一方で、ランダムで興味とは関係ない動画を再生するので、ターゲット以外の顧客層にも視聴してもらえるため、新たなニーズや市場創出の機会となる可能性があります。
どちらも、アルゴリズムが公表されているわけではありませんが、音楽レーベルの方はこういった特性を上手に活用しているそうです。ただ、SNSは何がバズるか分からないため、色々やってみるしかありません。
フォロワーの効力とロイヤリティ
フォロワーが1万人を目指すのは、間違いなく本業にも良い効果があります。例えば、X(旧Twitter)でフォロワーが1万人いたとします。太い客を見つけて、こちらから相手をフォローすることで本業に繋げる可能性があります。
実店舗への来院以外にも、オンラインでの健康セミナー、サロンなどへの参加や書籍があれば、購入機会を上げられます。何か活動するときの資金集めとして、クラウドファンディングも1万人のフォロワーがいると心強いでしょう。
では、そんな太い客をどう探すのか考えてみます。
・客層が近縁の施術家、治療家などのフォロワーをまずターゲットにする。
・その施術家の最新の投稿にリツイートしているアカウントは、生存アカウントであり反応のいいフォロワーの可能性が高い。
他に、あまりに有名な施術家よりも自身と同じレベル(知名度、技術などを含め)の施術家の中から、フォロワーが多い方を選ぶのが現実的でしょう。そうして見つけた太い客に、フォローやDMなどを送ります。
フォロワーの多くは経営者や施術家から直接連絡が来るとは思っていないため、心理学的に言う権威の服従が起こりやすく、無作為にフォローバックするよりも効果的です。何にせよ、SNSは効率的かつ地道な継続が大切だということです。
業界トレンドと高収入の実現方法
世界は日々進化し、成功を収めるためには常に最新の業界トレンドに敏感であることが重要です。年収1000万円の目標に向けて、柔整業界の動向を理解し、それに即した戦略的アプローチが求められます。
ここでは、柔整師が高収入を実現するための具体的な方法と、その背後にある感情や挑戦に焦点を当ててみましょう。
デジタルテクノロジーの活用で新しい扉を開く
柔整業界にもIT化の波は押し寄せています。オンライン予約やオンライン相談など患者とのコミュニケーションの形も強化され、カルテ管理も顧客管理もクラウドでできる時代です。このような業務の効率化は、ヒューマンエラー対策やコストカットの点でも有効です。
また、AIの活用で診察の効率化、精度向上、さらには施術レベルの向上、平準化にもつながるため、DX化した施術所は増えています。しかし、まだ現状は施術所のDX化が普及しているとは言い難いです。
というのも、導入にはコストがかかることと、結局それを扱う人材の育成が課題だからです。先述のSNSでもそうですが、活用するにもコツがあり、実際にそれが収益に繋がるには知識や時間、労力が必要です。
ホームページや管理ソフトを自分で作成できるなら良いですが、しかし、大体の方が業者に任せてしまうのではないでしょうか。業者に丸投げした場合、100万円程かかるなどざらです。それも例えばフルスクラッチだと、アップデートの度に料金が発生します。
AIもどのようなデータを読み込ませ、何をどう分析させるのか、そういったデータの取り扱いが分からなければ使う意味がありません。
ただ、だからこそDX化が普及する前にいち早く導入することは、必ず競合他社へのアドバンテージになります。勉強する分野が広く、膨大ではありますが挑戦の価値はあります。
専門性を極め、信頼を築く
業界では常に新しい治療法やアプローチが出ています。最新の情報を追い求め、積極的に専門知識を取り入れることが求められます。その上で、独自のアプローチを開発できれば、それは大きな参入障壁となります。
特定の領域において深い知識を持ち、それを患者に提供することができれば、高い信頼を築くことが可能です。その場合、例え競合店が価格攻勢に出たとしても、顧客ロイヤリティは維持できるでしょう。
ただし、専門性というのは治療法などだけではないと思います。例えば、先述のDX化の活用として、近隣に複数店舗を設置したとします。来院希望の患者は、専用アプリから現在待ち時間の少ない店舗を紹介されることで、混雑を軽減することができるというものです。
この場合、患者データは全てクラウドでアクセスでき、AI分析で最適な施術が行われるため、どの店舗でも高い安定したサービスを提供できます。患者とすれば、予約せずに来院できることと、データがしっかり管理されているため、他店への乗り換えが面倒になります。
以上のように、施術者自身の個性を見極めたシステムづくりが大切です。
まとめ
この記事は、柔整師で年収1000万円達成の方法について考察してきました。現実的な筋は独立開業で、複数院を経営することです。それも、綿密に経営戦略を練り、また施術者としても高い技術を身に着ける必要があります。
今後、DX化の波に乗れない接骨院は窮地に立たされるでしょう。それほどに、SNSなどの影響力は大きいです。常に幅広いジャンルにアンテナを張ることが、これからの鍵なのです。