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鍼灸師市場のいろは ~求人倍率や給与、就活時期が丸わかり~

治療家業界に特化した就職・転職支援サービスとして、業界最大級のウィルワンエージェントで、学生を専門に就職サポートを行うキャリアパートナーの服部さんにお話を伺いました。

記事を書いた人

服部 希美

株式会社エス・エム・エス ウィルワンエージェント キャリアパートナー
はり師・きゅう師 呉竹鍼灸柔整専門学校卒業
元自費型鍼灸整骨院院長、トレーナー経験(バスケ・ラクロス・ラグビー)
 
大学時代にトレーナー活動を経験、卒業後は鍼灸の専門学校で資格取得後、自費メインの治療院に就職しスポーツ外傷から美容鍼、物理療法まで幅広く経験し、院長も務めた。
現在は治療家業界に就職をする学生に向けて、自身の経験や業界の市況を伝え、有資格者がキャリアについて悩むことがないよう就職活動のサポートをしている。

鍼灸師は、はり師ときゅう師の国家資格取得者であり、鍼灸治療のスペシャリストです。
鍼灸師としての就職先は、鍼灸院やリハビリ施設など幅広く、将来的には独立も可能です。
ここでは、鍼灸師として就労するために必要なスキル、鍼灸師の有効求人倍率やおすすめの就活時期などについて解説します。

鍼灸師に就職するには?

鍼灸師として就労するためには、はり師・きゅう師の国家資格の取得が必要です。2022年2月に開催された『第30回はり師及びきゅう師国家試験』の、それぞれの合格率は以下のとおりです。

▽第30回はり師及びきゅう師国家試験の合格率
・はり師:74.2%(受験者数:3,982名、合格者:2,956名)
・きゅう師:76.1%(受験者数:3,892名、合格者:2,963名)
はり師だけの合格、きゅう師だけの合格では、かなり活躍の幅が狭まります。一度の試験でどちらの資格も併せて取得できるよう、しっかりした対策が求められます。

鍼灸師就職者の学歴は?

鍼灸師になるには、はり師・きゅう師試験で合格し、国家資格を取得する必要があります。この国家試験を受験するには、認定された養成学校等での3年以上の修学義務があります。

厚生労働省の『日本版O-NET』では、鍼灸師の就労者を対象としたアンケート調査を行っており、学歴のおおよそのデータが公開されています。

鍼灸師就労者の学歴は、専門学校卒が73.1%と圧倒的に多く、大卒者が46.3%と続きます。

先に述べた受験資格を最短で満たせる養成学校は専門学校であることが多いため、専門学校卒が多いと考えられます。学校によっては、修士課程・博士課程でさらに専門性を深めることも可能です。

鍼灸師として働くために求められるスキル

募集をしている企業の募集背景によっても異なりますが、多くの場合、施術スキルよりも、以下のようなコミュニケーションに関連するスキルが特に重視されます。

  • 傾聴力:患者がどういった状態か真摯に受け止める力
  • 観察力:施術中の患者のちょっとした反応などを観察する力
  • 説明力:患者への施術内容や治療方針を分かりやすく説明する力

鍼灸師の仕事は、体に悩みを抱える患者への関わり方が非常に重要です。
施術のスキルが高いことももちろん大切ですが、技術は入社後も継続して向上していけるもの。
患者に接する際の基本となる、上記のようなコミュニケーションスキルの高い人材は特に重宝されます。

 

鍼灸師の市場は?就労者数や求人倍率はどれくらい?

鍼灸師として一生働く、とすると、その業界の大きさや将来性は気になります。業界の拡大を表す就労者数の推移と求人倍率について確認していきましょう。

鍼灸師の就労者数

医療関係の事業所への就労者に関する統計データをまとめている厚生労働省の『衛生行政報告例(就業医療関係者)』では、鍼灸師の就労者数等について、はり師ときゅう師それぞれを紹介しています。

鍼灸師就業者数年次推移のグラフ

鍼灸師の就労者数や事業所数は、2010年以降増加しており、2020年は、はり師・きゅう師ともに就労者が12万人を超えて最大の数字を記録しています。

鍼灸師の求人情報はどこで入手できる?

はり師、きゅう師の国家資格取得者のための求人情報は、下記のような媒体で確認できます。

  • ネットの求人検索サイト
  • 就職支援(求人紹介)サービス
  • 業界特化型合同説明会
  • 養成学校のキャリアセンターや掲示板
  • 鍼灸院やマッサージ店などのホームページ
  • ハローワーク

特別な資格を求められるため、ハローワークに掲載されていない鍼灸師求人も多くあります。
業界特化の求人サイト・就転職のサポートサービスの活用も積極的に行いながら、幅広い選択肢から自分に合った就職先を見つけましょう。

求人情報が掲載されていても、すでにほかの応募者が内定し、選考活動が終了していることもあります。興味のある求人がある場合は、採用活動が続いているどうかを求人元に確認しましょう。

特に、自社のホームページの求人は、情報が更新されていない場合もあります。個人院のように不定期で採用募集をしている求人元には、電話などで直接、募集状況を確認するようにしましょう。

未経験でも就職できる?

もちろん、経験者のみの募集をしている求人もあるものの、近年、鍼灸整骨院を中心として、未経験者の積極採用を行っている企業が増えています。
丁寧な研修を売りにしている企業も多いので、自分の技術・経験に役立つ就職先を探しましょう。

有効求人倍率は全国で大きな差はない

就労者がどんどん増えている鍼灸師ですが、気になる求人倍率はどうなのでしょうか。
2021年度の全国ハローワークの鍼灸師(あん摩マッサージ師を含む)有効求人倍率は「0.83」です。鍼灸師1人に対して、求人数は0.83しかない、ということで、就職において競争率は高いと考えましょう。

この有効求人倍率について、都道府県の中からいくつかピックアップして紹介します。
倍率に大きな差はありませんが、なかにはより低い求人倍率を示す県もあります。勤務地についても検討することが、就職で成功するポイントとなっているかもしれません。

▽主な各都道府県の鍼灸師の有効求人倍率
・北海道:0.79
・宮城県:1.84
・東京都:1.09
・神奈川県:0.56
・愛知県:1.10
・京都府:1.02
・大阪府:1.21
・兵庫県:0.72
・広島県:0.49
・福岡県:0.55
出典:厚生労働省 職業情報提供サイト「はり師・きゅう師」より編集部調べ

各都道府県内の地域でも異なるものの、1倍を切っている県も見られ、求人が少ないことを示しています。
先に述べたように、ハローワークに掲載されていない求人も多くあるため、実際の有効求人倍率よりも低い数値になっている可能性が高いですが、
鍼灸師として働くとき、地元にこだわると就職が難しくなることもありうること、理解しておきましょう。

鍼灸師就労者のおおよその給与相場

気になる鍼灸師の給与については、2021年度のハローワーク求人票データを元に求人賃金を紹介します。月額での全国平均額は「25.5万円」であり、いくつか抜粋した各都道府県の求人賃金の月額は以下のとおりです。

▽主な各都道府県の鍼灸師の求人賃金(月額)
・北海道:18.9 ~ 26.4万円
・宮城県:20.4 ~ 28.4万円
・東京都:22.5 ~ 30.4万円
・神奈川県:22.4 ~ 31.4万円
・愛知県:23.1 ~ 33.2万円
・京都府:22.2 ~ 31.3万円
・大阪府:21.7 ~ 28.8万円
・兵庫県:20.5 ~ 28.7万円
・広島県:21.2 ~ 28.6万円
・福岡県:20.5 ~ 28.7万円
出典:厚生労働省 職業情報提供サイト「はり師・きゅう師」より編集部調べ

求人のポジションはもちろん、大手グループ院や個人院などの違いで給与設定は大きく異なります。求人票から、「会社概要」「求人事業者」の情報や「勤務時間」などと突き合わせながら、給与については確認をしていきましょう。

鍼灸師の就職活動を開始する時期は?

鍼灸師の就職活動時期は、国家試験受験予定か、資格取得済みの経験者か、によって異なります。

受験予定の方は、国家資格であるはり師、きゅう師の資格を取得する前である、卒業年度の前年の夏~秋ごろに活動するか、資格取得後に活動するかで結果が異なります。
はり師やきゅう師の資格試験は、毎年2月下旬に開催され、合格発表は3月下旬です。

鍼灸師の有効求人倍率の全国平均は「0.83」と、決して求人が潤沢にある訳ではありません。資格取得を優先しすぎると、先行して動いている応募者に先に求人を取られてしまいます

資格試験対策も大事ですが、資格未取得でも受験資格があれば選考を行っている会社もあります。求人情報は早めに確認しておき、いくつかの応募候補を準備しておきましょう。

資格取得済みの経験者の場合は、ご自身のご都合に併せての就職活動開始となるかと思います。
4月からの勤務開始を希望する場合、特に3月ごろの就職活動は、新卒に求人を取られる可能性も高いため、時期をずらして1-2月、もしくはそれ以前に活動することをおすすめします。

鍼灸師求人の読み解き方

求人票の読み解き方!~「思っていたのと違う!」とならないために~でも解説した中から、一部抜粋してご紹介します。

求人票のサンプル画像

求人票のチェックポイント3:業務内容を確認する

「業務内容」の項目(3)には、採用された場合に、自分が担当する仕事について記載されています。ハローワークの求人票では「仕事の内容」欄を確認しましょう。
施術やカウンセリング業務などの患者対応だけでなく、事務作業などを行う場合もあります。

特に鍼灸師に関しては、鍼灸治療以外の治療を任されることもあるため、鍼灸師としての経験を積みたい方は、施術業務の内訳も気にするようにしましょう。
多くの場合、求人票の情報だけでは、日々の治療内容の内訳までは読み取ることができないので、見学や面接などのタイミングで、「一日何人くらいの患者様を対応することが多いのか、そのうち鍼灸治療を受ける患者様はどのくらいいるのか」を聞いてみるようにしましょう。

求人票のチェックポイント4:勤務場所を確認する

大手グループ院など、複数店舗を経営する企業に就職した場合は、「勤務場所」(4)についての確認も重要です。ハローワークの求人票では「就業場所」として記載されていますのでチェックしましょう。
画像の例のように、詳しい場所についての記載がない場合は、他の内定者との兼ね合いで配属が決まる可能性が高いです。引っ越しの希望がなければ、ご自宅から60分以内の配属にしていただけるケースが多いですが、不安であれば必ず面接のときなどに担当者に確認しましょう。

また、希望の勤務地に配属されたとしても、グループ院では将来的に別の地域へ転勤する可能性もあります。転勤の有無が求人票に記載されていない場合は、直接採用担当に問い合わせることも重要です。

逆に、希望する企業がご自宅近くに事業所がない場合、ご自身が引っ越しをすることも検討しなくてはなりません。
特に新卒学生様の中には、「1時間半かけて学校に通っているので、そのくらいの通勤時間なら耐えられます」という方が多くいらっしゃいます。
ですが、「学校で座って授業を聞く1日」と、「身体を動かしたりお客様の相手をする1日」では、終わった後の疲労度は大きく異なります。
毎日8時間(場合によってはそれ以上)働いて、さらにそこから1時間半以上かけて帰宅し、身の回りの支度をして次の日また1時間半以上かけて通勤する、というのは、ご自身が想像するよりもハードです。
患者様・お客様の身体を支える自分たちが身体を壊してしまっては元も子もありません。
引越し手当や家賃手当が支給される企業も増えてきています。
ご自身の健康を守るためにも、無理のない通勤が出来る企業を選ぶか、思い切ってご自身が引越しをするようにしましょう。

決して多くはない鍼灸師の求人。求人票はしっかり確認しよう

鍼灸師は、就労者数が12万人を超えており、柔道整復師と比べると求人数は決して多くはありません。

就職に関していえば、自分の他にもそれだけたくさんのライバルがいることを前提に、資格取得前からも求人チェックなどの就職活動を行うようにしましょう。

鍼灸師の求人票をチェックするときは、応募資格をまず確認してスクリーニングをしたあと、事業規模や業務内容、待遇などの細かいチェックを行いましょう。

鍼灸師としてスキルアップや将来的な独立開業を目指すならば、研修サポートなどを明記している求人票から優先的に詳細確認をしてみましょう。

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